こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

ジェフ・ベック 2013年4月14日@パシフィコ横浜

 ジェフ・ベックの来日公演に行ってきました。彼のライヴを観るのは3度目。僕がジェフ・ベックのファンになったのは2000年ごろだが、ファンになって初めての来日がアルバム『Jeff』を引っ提げてのツアーで、2005年の夏だった。その次の単独来日だった2009年のにも行った。この2度はどちらも大阪厚生年金会館だったと記憶する。
 その次には2010年の春に、『Emotion & Commotion』のリリースに合わせて来日公演があったのだが、この時期は個人的に引っ越しやら何やらで割とバタバタしていたのと、前年に観たばかりというせいもあってか、観に行かなかった。そのことを後悔し始めていた先日、上手い具合に新譜&来日のニュースを知って大喜びしたのである。但し新譜の方は間に合わなくって3曲入りのシングル『YOSOGAI』が当座出されたと言うことは、以前このブログでも書いた通り。
 なおこの『YOSOGAI』は、「ダニー・ボーイ」のカバーを除くと『Emotion & Commotion』よりは『You Had It Coming』や『Jeff』に近い雰囲気で、結構嬉しかった。
 さて来日公演。今回はかなり色々な場所で演ったようだ。尼崎のアルカイック・ホールなんかは個人的にも馴染みのあるところで「えっ、あんなところで演ったの?」とちょっと驚いたり。あと盛岡でも演ってたよな。しかも今日は大阪、明日は東京、というようなかなりのハード・スケジュールだったようだ。有り難いことである。僕が観に行った横浜公演はそんなツアーの後半戦。会場には近々来日公演をやるミュージシャンの広告が色々出ていたのだが、ジョン・メイヤーはともかくとして他は全部70〜80年代のバンド。とにかく一番でっかく宣伝しているのがボストンなんだもの(ボストンの来日公演については丸ノ内線四ツ谷駅にも大きな広告が出ていた)。あとはディープ・パープル、TOTO、エイジア、リック・ウェイクマンブライアン・セッツァー・オーケストラ(これはちょっと異色だったか)・・・とまあ、明らかにターゲットが50代である。「おっ、ボストン来るのか!」と反応している20代のあなたは私と同様、精神はオッサンです。
 一応物販も覗いたんだけれども、これまで通り(・・・)Tシャツとかはデザインの気に入るものが全然なかったなあ。「Jeff Beck」と刺繍の入ったキャップ帽っつーのもどうも・・・。パンフレットも薄い割に高いし、どうせ殆ど読まないので買わなかった。


 さて入場。広いステージに、ドラムセットと、それほど大きくないアンプが幾つか置いてある。PAがあるんだからアンプは別に大型である必要はないのだろうが、なんとなく所在ない感じであった。効率性を突き詰めるのも考え物と言うことか。
 僕の席はPA卓のすぐ後ろで、つまり1階席のちょうど真ん中辺りだった。ステージまでの距離はそれなりにあるが、満遍なく見渡せる良い席だったと思う。両隣は、片や40前後のチョイ悪っぽい男性、片やハタチ過ぎくらいの女性。
 で、この女の子が開演前からずっと泣いてるんだな。うずくまっているんで体調悪いのかなと思ったが、どうも泣いているらしい。弱ったが、声を掛けても仕様がないので、薄情かしらと思いつつも放っておく。時折すすり泣きの声が微かに聞こえる。
 一緒に来るはずだった彼氏に振られたのだろうか、と月並みなことを考えてみるが、彼女の隣(僕でない方の)も埋まっているので、そうではないらしい。じゃあ家族に不幸があったとか? しかしそれならライヴには来ないだろう。来るんだったらここで泣かんでもらいたい。
 ところが場内が暗転し、メンバーがステージに現れた時に、彼女の泣き声は大きくなったのである。まさかジェフが好きで泣いているのか!?と思ったが、ライヴの進行につれてその推測の正しいことが明らかになった。楽曲やジェフの動きと、彼女の嗚咽とが連動しているわけだ。バラードになると嗚咽が激しくなる。バラードだと音が静かだから嗚咽も目立つわけで、隣にいる者としては非常に気になる。「Where Were You」なんか、万年初心者とは言えギター弾きとしては目を皿のようにして観賞したいところなのに、隣で「ふぅうー・・・」とか言われると・・・「うっせえなあ」というのが偽らざる感想であった。
 しかしながら己を顧みると、ライヴで泣くというのは、思い入れの強いミュージシャンだと僕も結構やることだし、それが嗚咽に到ったことも今までに数回ある。だから彼女を責めることは出来ない。むしろ「気持ちは判る」と言うべきなのかも知れない。
 でも、言い訳させてもらうと、僕の場合は嗚咽したっつってもそれはライヴの中のせいぜい1,2曲である。例えばこの前のポール・マッカートニーの東京公演だと「Here Today」だけだし(大阪公演の「あの娘におせっかい」でも泣いたけど、涙が出ただけで嗚咽には到らなかった)、サーフィスの解散コンサートでも本編最後の2曲(「さぁ」と「アイムファインセンキューアンジュー?」)だけだった。彼女のようにライヴを通して、それどころか開演前から泣いているなんてことはついぞない。
 だから「一緒にしないでもらいたい」というのが本音なのだが、ともかく「隣で泣かれると非常に気になる」ということが判ったので、人の振り見て何とやらで、僕も今後は幾ら涙を流しても努めて声は上げないように、意識したいと思う。とりあえず来月のポールの来日公演、気をつけなくては。


 ・・・と、話が終わってしまうところであったが、肝心のライヴの内容について全く書いていない。まあ「ジェフのあのギターが堪能できました」の一言で済む話ではあるのだが。
 ともかく、ライヴを観る度に痛感してしまうことは、彼が弾いているのは紛れもなくエレキギター、しかもその中でも最もポピュラーなフェンダーストラトキャスターであるに違いないのだが、彼の演奏というのは、我々の知る「エレキギター演奏」とはおよそ異なっていて、まるで全然別の楽器を演奏しているかの如くである。所謂代表作である『Blow By Blow』『Wired』での演奏は、まあ相当独特ではあるのだけれども、少なくとも「エレキギターの概念」から逸脱したものではない。現在のような演奏形態――これは1960年代にジミ・ヘンドリックスが行ったのと同等の革命的行為であると僕には思えるけれども――にジェフ・ベックが到達した経緯を見るに、1989年の『Guitar Shop』である程度のプロトタイプを提示し、次作である99年の『Who Else!』(格好良いタイトルだ)の頃には完成されていた。そしてそこからも徐々に変化を遂げつつ現在に到っている、と取り敢えずはまとめられよう。そのキモは・・・うーむ、ピッキングとアーミングとスライドでしょうか。よく判んないけど。なんか右手にスライド・バー持ったりしてるんですよね。見ていても何やってるんだかサッパリ判らない。
 アーミングは当然ながらトレモロ・アームが付いたギターでしか行えないわけで(ネックベンドはナシよ)、シンクロナイズド・トレモロを搭載したストラトキャスタージェフ・ベックの代名詞となっているわけであるが、今回はなんと白いテレキャスターを携えてステージに現れたので驚いた。結局アタマの1曲だけだったけど。その後はお馴染みの白いストラトをずっと弾いていたが、ただ序盤では複数(2本?)のストラトを頻繁に持ち替えていた。今まで観たライヴではずっと1本のギターで通していたように記憶していたので、これはちょっと目新しかった(補記:このことは渋谷陽一も「渋松対談」で指摘していた)。舞台裏でチューニングさせておくためなのか、2本それぞれの設定チューニングが異なっていたのかは判らない。
 あと、エフェクター・ボードが置いてあってジェフが自分で操作していたのも新鮮だった。これも今まではバックステージでローディーにやらせていたのじゃなかったかな?
 編成はジェフの他にサイド・ギターが一人、そしてベースとドラムの計四人編成。但しシンセの音も適宜流れていた。僕は現在のジェフ・ベックに相応しい編成はギター、キーボード、ドラムのトリオだと思っていて(つまり『Guitar Shop』及び『Live at BB King Blues Club』の編成)、今回の編成はちょっと過剰に思うくらいなのだが、まあベースあんまり聞こえなかったしいいか。いいかってことはないんだけど。
 曲は大凡、新曲と定番曲という取り合わせ。定番曲というのは「Angel」「Where Were You」「Led Boots」「Goodbye Pork Pie Hat / Brush with the Blues」「Big Block」「Stratus」「A Day in the Life」等。前回観た時には『Guitar Shop』から「Behind the Vail」と「Two Rivers」を演ったり、『There And Back』から「Space Boogie」を演ったりして、結構面白かったのだけれど、その点では今回はちょっと意外性に欠いたと言えなくもない(「The Pump」を演った日もあるらしいが)。まあその分、新曲は多かったのだけれど、あんまりアクが強いのはなかった印象だなあ。アルバムどうなるんでしょ。
 上記の曲だと、やっぱり「Where Were You」が本当に素晴らしかった。毎度ながら、息を呑む美しさというのは正にああいうのを言うのだろう。「Angel」では珍しく音程が結構不安定で心配させられたのだが、「Where Were You」は文句なしの出来映えでした。
 ちょうど、僕が観た回の演奏がアップロードされているので御紹介。
 
 本編ラストの「A Day in the Life」も流石に良かった。最後のジャーン!が迫力満点で、素晴らしかった。
 「Goodbye Pork Pie Hat」は本当は1曲丸々演って欲しいのだが、今回もやはり「Brush with the Blues」への繋ぎでしかなかった。残念。「Goodbye 〜」は『Live at BB King Blues Club』のテイクが凄く良いんですけどね。あれが聴きたい。
 「Led Boots」はなんかモタっとした感じで、イマイチに感じた。前回観たときの、ヴィニー・カリウタの凄まじく鋭いドラム・ソロに続いてジャーン!!とあのイントロが希望の鐘の如く鳴り響いたテイクに非常に感動したので、ちょっと落差を感じましたですね。
 そう言えば今回のドラマー、非常に手数が多くって上手いのは判るのだけれど、僕はあんまり好みでなかった。そもそもがやたら手数の多いドラムっちゅうのがあんまり好きでないというのもある。じゃあなんでボジオやカリウタは良かったんだよと訊かれると困るのだが。振り返ってみると、ジェフって手数の多いドラマーが好きですよね。個人的にはメグ・ホワイトと演るとかの方が興味を引かれるのだが。
 なお「Led Boots」のみならず「蒼き風」を演った日もあるらしい。ちょっと羨ましい。でも『Wired』からだとむしろ「Come Dancing」や「Play with Me」なんかが聴きたいですね。あと絶対に演らないだろうけど「Love is Green」。
 「Stratus」「Big Block」はやっぱりキャッチーで、いいですね。
 あ、そう言えば「You Never Know」も演っていた(この曲は今月号の『Guitar Magazine』誌に譜面が載っていた)。イントロはベースだ。ベースがタル・ウィッケンフェルドの時にもこのアレンジで演っていたよな。これも、イントロをギターがやった『Live at BB King Blues Club』の方が僕は好きだな。この曲、Bメロっつうのか、コーラスの終盤のところでテンポをぐっと落としてみんなでユニゾンで演奏するというアレンジになっていますよね。※以下の動画の1:00〜の部分。
 
 上の動画ではあまり違和感ないけれど、今回の公演ではここがどうも「未完成」に思えた。揃ってないというか。「Hammerhead」もそんな感じだったな。
 『YOSOGAI』ではイメルダ・メイのボーカル付きだった「Danny Boy」はインストで演ってくれた。あ、あと2曲目くらいでジミヘンの「Little Wing」も演っていた。良かった。
 なおアンコールは「Rollin' And Tumblin'」と「哀しみの恋人たち」。「Rollin' 〜」はイントロが、ジェフが一人でカントリーっぽいリックを弾きまくるというもので、非常に盛り上がりました。これはハイライトだったな。「哀しみ〜」は、現在のジェフのスタイルには合わない曲のように思えるのだが(懐メロっぽくなっちゃうというか)、実際に弾いて頂くと、やはり、良かったです。弦が切れちゃうアクシデントがあって、これも盛り上がった。そう言えばなんかの曲でジェフが明らかに間違えちゃうだかフレーズ忘れちゃうだけのアクシデントもあって、これも盛り上がったな。全体的に観客は暖かい感じで、ジェフも意外なほどこまめに歓声に応えていた。
 上で色々と不満点も書きましたが、我がヒーロー、ジェフ・ベックだもの、非常に感銘を受けました。遅れちゃった新譜も期待。あとブライアン・ウィルソンとの共作の方で「Surf's Up」が音源化されることにも期待したい。