"すかんち"のキーボーディスト兼サブシンガーとして知られるドクター田中が逝去したとの一報が入った。
バンドの初期~中期を担ったメンバーで、アルバムで言うと『OPERA』を最後に脱退、その後を小川文明が担った。ドクター田中は、その強烈なルックスだけでなく、楽曲・歌唱の面でも、この時期のすかんちに重要な色付けを行っていた。
私がすかんちを知ったのは――90年代に幼少~少年期を過ごしたほとんどの人は同様だと思うが――『天才てれびくん』で使われていた「タイムマシーンでいこう」「YOU YOU YOU」によってであった。その後、タレントとしてローリー寺西を知り、ロックが好きになり日本のロックにも関心が向かう中で すかんちを「再発見」したのだったが、CDを手に入れてちゃんと聴いたのは割と遅く、大学院に進学した辺りだったかと思う。その後、どんどん聴いていった。
最初に聴いたオリジナル・アルバムが先述の『OPERA』であった。当然のようにローリー(だけ)がボーカルと思い込んで聴いていたところに、4曲目の「恋人はアンドロイド」で、明らかにローリーとは違う男声ボーカルが入ってきたので、驚いた。そのボーカルは・・・何と言うか、ローリーと比べると高音がかなり効いた声質で、奇妙にナルシスティックな印象を与え、それなのに快活な雰囲気もあり、且つ歌唱としては朗々としていて上手い・・・という、良くも悪くも相当に印象深いものであった。
ハッキリ言えば「気持ち悪い」というのが第一印象だったのだが、にも関わらず妙に気になる、聴いてしまう、という、そういう歌声・歌唱であった。インパクトそのもので言えば、ローリーを超えていたと言っても良いだろう。それがドクター田中だった。
アルバム後半に収められた「涙の選択科目」も同様であった。2曲とも、楽曲自体は妙にストレートなポップスで、全体を支配するローリーの作風の中では「浮いている」ように思えた。「アルバムに1,2曲」という位置付けからすると、ビートルズにおけるジョージ・ハリソンを連想しそうなものだが、ジョージみたいなシブい感じではないのだ。大袈裟に言えばジョージの代わりにフレディー・マーキュリーが入ったみたいな感じである。艶っぽい声とした声とスキっと爽やかな楽曲(そしてビジュアル)との強烈なミスマッチが、えも言われぬ個性・魅力となっていた。
最初は違和感の方が強かったドクター田中の楽曲・演奏であったが、上にも述べたように、聴いていく内にどんどん「これが無くては」という気持ちになっていく。それが彼の音楽とすかんち全体との不思議な関係であった。
彼の楽曲はもちろん他のアルバムでも聴くことができるが、特に印象的なものの一つに「欧羅巴奇譚2」がある(『恋の薔薇薔薇殺人事件』収録)。基本的にすかんちの「爽やか」(カッコ付きなのが重要)を受け持っていた彼ではあるが、この曲ではドラマチカルな楽曲で、その声の個性をビシっとマッチさせている。
その「爽やか」路線で言えば、同じく『恋の薔薇薔薇殺人事件』収録の「涙のサイレント・ムービー」を挙げなくてはなるまい。これは本当に美しく感動的なポップスの傑作だ。
もう1曲挙げるならば、バンド自体の代表曲の1つ「恋のT.K.O」だろう。これはローリーの歌唱が主体の曲だが、後半のCメロでドクター田中が入ってくる。その対比が実にイイ! 正にこの時期のすかんちが堪能できる曲と言えるだろう。
ボーカルの掛け合いということで言うと、shima-chang、ドクター田中、ローリーの三者の掛け合いが楽しめる「好き好きダーリン」(『恋のロマンティック大爆撃』収録)も必聴だろう。普段ならローリーが言いそうなフレーズをドクターが発しているところも面白い。
ドクター田中の冥福を祈る。私は、あなたが好きだった。