こんなんだったっけ日記

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渋谷すばる『二歳』各曲感想(C面・D面)

 前稿の続き。後半である。他の音楽に気が向いて暫く本作を聴いていなかったのだが、改めて聴いてみると本当に良い。傑作と言っていい。こういう1枚を作れたんだから、ソロになった甲斐があると思う。

 
7. 爆音

 静かな前曲(「なんにもないな」)からの仕切り直しという意図を明確に感じる。楽曲単体としては、もうちょっとヒネりが欲しかった気もするが、これはライブではかなり良い感じに響く気がするので、映像で観てみたい。それから、これは次の曲も同様だが、シンセサイザーを積極的に鳴らしていることを物珍しく感じた。むしろもっとアナログ推しで来るかと思っていたので。でも決して悪くない。

 

8. ベルトコンベアー

 ここからが良い。アルバムの勝敗を決めるのは、後半に良い曲をしっかり置けるか否かだと私は常々思っているのだが、その点でこのアルバムは「勝った」。ここから良い曲・面白い曲を畳み掛けてくるのだ。

 この曲は、怪しげな雰囲気と明るいサビが好対照を成していて、面白い曲だ。単なる良い曲というのではなくって、こういうフックのある、「引っ掛かる」曲をちゃんと置けるのが、アルバムを魅力的なものにするためには重要だと思う。

 それぞれの楽器がバッチリ鳴っていて嬉しいが、特に耳に付くのは先述のシンセサイザーと、合間を縫ってくるエレキベース。瑞々しいドラムも良い。もちろんギターも良いよ。

 
9. ライオン

 ここから終盤に向かい、叙情的な曲が続く。ともすれば「くどい」という印象を与えかねないのだが――そして実際、「くどい」一歩手前まで来ているとは思うが――そこをギリギリで回避している。それは曲調の微妙な差異と、そして各曲のクオリティーの高さによるものである。

 「ライオン」「TRAIN と RAIN」「生きる」はいずれも切々と訴えるところのあるバラードだが、その中でも特に感情の高ぶりが大きいのはこの「ライオン」ではないかと思う。後半サビの「俺のもの 俺のもの 俺だけのもの」というところは、まさしく「絶唱」と呼ぶに相応しい。こういうのに出会えるから、音楽を聴くのは止められない。

 

10. TRAINとRAIN 

 これもアルバム前半の楽曲「来ないで」と同じように、人とモノとを重ね合わせる歌詞の曲。

 優しげなAメロから、盛り上がりの大きい、声を張り上げるサビに至る。でもそのサビの終わりではまたAメロのムードに戻り、

 「僕は電車。」

 と、優しく締め括る。そこが良い。 

 前曲の「ライオン」もそうだけれども、自伝的なムードを感じる歌詞である。これは、私が涙ぐんでしまうくらいだもの、ファンは泣くだろう。

 「でも僕の体は鉄作り 何があったってひしゃげるものか」というフレーズがとても良い。古めかしくも、また時代を超えているようにも感じる。

 電車の進行音をモチーフにしたパーカッションのようなサウンドが面白い。

 

11. 生きる

 最後から2曲目だが、この曲が実質的なアルバムのエンディングであると見て良いだろう。

 最初のギターは、エレキとアコギが同時に鳴っているように聞こえるが、これはエレキの音をアンプからの出音だけではなくギターそのものの生音も併せて録音したものだろうか。その後は、伴奏が大きく鳴るアレンジになっているが、個々の楽器の響きがはっきりしている、裏を返せばちゃんと「空白」のある音像なので、音そのものの大きさに比してうるさく感じない。昔ながらのロックファンを喜ばせる録音である。前稿でも触れたように、これはアルバムのサウンド・ディレクターである山森大輔の功績だろう。

 1番のサビで「一歩踏み出すなんてしなくてもいい/いつもつま先だけはあの方向へ」とあるのだが、その後を聴いていくと、やがてその「つま先」が前へと向かっていくことが示される。そこが素晴らしいと思う。

 最後は、「生きる」という歌唱部で曲が終わるのだと思いきや、その後にアウトロが付いていたことが嬉しい驚きだった。この音源ではごく短いものだが、ライブではこのアウトロを是非もっと長く演ってほしい。

 

12. キミ

 弾き語りのデモをそのまま収めたような作りになっている。だからアルバム本編は前曲「生きる」で終わり、この曲はオマケというか、ボーナストラック的な気持ちで聴くのが良いのだろう。

 ところで、ジョン・レノンの実質的な初ソロ・アルバム『ジョンの魂』の最後の曲は、"My Mummy's Dead"という短い曲だが、テレコに録ったらしいアコギの弾き語りを収めた、実にラフな仕上がりになっている。渋谷すばるの実質的な初ソロ・アルバムである本作の最終曲がそれと同じ作りになっているのは、果たして偶然かどうか、非常に興味を惹かれる。前の記事で書いたように、『二歳』の発売日はジョンの誕生日の10月9日である。

 

二歳(通常盤)

二歳(通常盤)