こんなんだったっけ日記

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Off Off Mother Goose

 日本を代表するイラストレーターの一人である和田誠が言葉遊びにも非常に強い関心を持っていることは、大傑作『倫敦巴里』を読んだことがある者などには周知の事実であるが(余談ながら、倫敦巴里子さんという作家がいるそうだが関係あるのかな)、その一環として、英語詩に特徴的な「脚韻」を日本語詩に採り入れた作品を幾つも発表しており(「怪盗ルビィ」等)、その真骨頂とも言えるのがマザー・グースの翻訳、『オフ・オフ・マザー・グース』である。オフ・オフというのは、ニューヨークのブロードウェイに対するオフ・オフ・ブロードウェイに準えたものであろうが、既にある谷川俊太郎などによるマザー・グース邦訳に取って代わる「定番」になるつもりはなくって、隅の方でこっそりやらせてもらいますよ、というような意味合いなのであろうか。
 さてさて、この『オフ・オフ・マザー・グース』に、櫻井順によってメロディーが付けられ、数多くのゲストを招いてCD化されていること(1995年)、そしてその中で、先日記事にした忌野清志郎が「フェル先生」という曲を歌っていることを、mayukwさんのブログ『My Favorite Things』にて御教示頂いた。今までちっとも知らなかった。
 それで興味がわいて、CDを入手して聴いてみたのであるが、コレは素晴らしいですよ。まず清志郎の「フェル先生」。二人のお子さんと共演している。

 ・・・この映像だと只の親バカみたいですが、CDではこの共演が非常に効いています。ほんとに。僅か40秒の短い曲だもんでアマゾンの商品ページで全体が試聴できる(音質は悪いが)。一度聴いてみて下さい。清志郎のメインボーカルと、彼のギター、そして二人の子供のコーラスが絶妙なバランスで響いている。何度聴いても、良い。
  フェル先生 ぼくはあなたがきらい
  どういうわけだか 説明はできない
  だけどきらいだ それはぜったい
 ・・・という、積極的に理屈を排した歌詞も清志郎にピッタリ合っている(一応注記しておくと、各行[ai]で脚韻を踏んでいる)。mayukwさんのブログでも指摘されている通り、RCの初期の代表曲「僕の好きな先生」を明確に意識しての指名であろう。
 こういうふうに指名理由がハッキリしているペアが他にもあって、例えば「悪魔」という曲は日本で一番有名な悪魔であるデーモン小暮閣下(この時既に芸名に閣下が付くんですね)が担当している。また、「まがまが男」を巻上公一が担当しているのは、この曲名がヒカシューの「プヨプヨ」とか「ビロビロ」を連想させるからではないか。
 他にもゲストは豪華である。知久寿焼(たま)、木村充揮憂歌団)、井上陽水近田春夫雪村いづみ岩崎宏美イッセー尾形岸田今日子野坂昭如黒柳徹子、云々、とまあ、ちょっと異様な感じさえするほどの面子(まだまだ沢山います)が一堂に会している。ひとえに和田・櫻井両氏の人徳と、企画及び作品の上質さによるものと言えよう。勿論、平野レミさんもいます。かまやつひろし細野晴臣がいないのが残念。
 清志郎もそうだが、知久寿焼木村充揮などは完全に楽曲を自分のモノにしていて(明らかに編曲に携わってるな)、ファン必聴である。逆に、清水ミチコが普通に(というのもヘンな言い方だが)歌っているのもなんだか可笑しい。
 とにかく一曲一曲が短いながらも丁寧な出来で、飽きずに楽しめる。YouTubeにはあまり上がっていないようだが、白眉の一曲「かわいい娘さん」(辛島美登里露木茂)が現在聴けるので御紹介。

 どうですか。面白いよね。全体的にこういう、ピアノ伴奏を主体にしたシンプルな楽曲が続く。全60曲で、大した労作である。作曲の櫻井順氏は「黒の舟歌」の作者だそうで、そう言えば本作の「巨人の歌」(歌はC.W.ニコル)はちょっと「黒の舟歌」っぽいかも。
 なお日本で一番有名なマザー・グースの歌は例の「クックロビン音頭」であろうが(ほんとかな。あ、そう言えば本作にはパタリロ役の白石冬美も参加)、これに相当する「コマドリの死」がアルバムの最後を飾っている。
 本作は好評を以て迎えられたようで、現在も廃盤にならず販売されているのが何よりの証拠であるが、続編の『またまたマザー・グース』も出ている。これローリー寺西が出ているらしいんだ。聴かねば。