こんなんだったっけ日記

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ザ・ビートルズ・マテリアル Vol.4 ジョージ・ハリスン/リンゴ・スター

 和久井光司ザ・ビートルズ・マテリアル』待望の完結巻「Vol.4 ジョージ・ハリスンリンゴ・スター」が遂に出た。僕は、ジョンやポールは(少なくともアルバムについては)大凡のディスコグラフィーを知っていたが、ジョージとリンゴについては殆ど知らない。どのくらい知らないかというと、ジョージのアルバムである程度ちゃんと聴いたことがあるのは『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』(73年)と、近年出た『アーリー・テイクス Vol.1』(これは愛聴盤)のみ。あ、あと『慈愛の輝き』(79年)を暫く前によくBGMにしていたけど、聴き直さないと曲が思い出せない。そしてサラっと聴いたことがある程度なのが、『オール・シングズ・マスト・パス』(70年)、『33 1/3』(76年)、あと高校の頃に別のクラスの奴が貸してくれた『ブレインウォッシュト』(02年)くらいか。評価の高い『クラウド・ナイン』(87年)は一度チラっと聴いたものの全く受け付けずにすぐに聴くのをやめた記憶がある。
 リンゴに至っては、中学生の頃に近所の図書館にあった『ヴァーティカル・マン』(98年)を数回聴いたくらい(確かスティーヴン・タイラーが「ラヴ・ミー・ドゥー」でドラム叩いてるんだ)。近年のアルバムはいずれも評価が高いと聞き知っているが、チェックしてない。70年代の曲とか、ヒット曲が幾つもあるそうだが、本当に知らない。去年の来日公演も行かなかったしなあ。今僕はリンゴのシグネチャー・スティック(ジルジャン)を使っているのだが、全く資格ないですね。お恥ずかしい。
 ビートルズ、ジョン、ポールについては、幼い頃から実家に父のCDやLPがそれなりにあったのだが、そう言えばジョージとリンゴのは見事に一枚もなかったもんなあ。若い頃は持っていたのかも知れないが。


 そんなわけで、本シリーズではある意味この巻が一番重宝することになりそうだ。しかし、のっけからナンだけど、酷いなあ表紙絵。この『ザ・ビートルズ・マテリアル』は一貫して浦沢直樹が表紙絵を手掛けていて、「ビートルズのアルバム・ジャケットを背景にして、オリジナルとは異なる姿のメンバーを配置する」というオシャレな体裁を毎回とっている。それはいいのだが、なんというか、非常に単純な話として、絵が似ていないのだ。
 まず「Vol.1 ザ・ビートルズ」が最悪だった。『レット・イット・ビー』のワクに初期の4人を収めているのだが、本当に「まともに似ているメンバーが一人もいない」という恐ろしいことになっている。一番マシなのがジョンかなあ。ジョージは雰囲気出ている気もするが、ちゃんと見ると全然似ていない。ポールは「この性格キツそうなオバサン誰?」という感じだし、リンゴは大きな鼻で誤魔化している。ロック好きで知られる漫画家が、コレでいいのか。インターネット上では「漫画家とイラストレーターは別だから仕方ない」という同情的な意見も出ているが(こういうフォローが出来る人って偉いよな)、それにしても・・・という感じだ。
 次の「Vol.2 ジョン・レノン」は『リヴォルヴァー』を背景にしたもので、これはそれほど悪くなかった。及第点という感じ(補記:前言撤回します。これもちゃんと見ると、かなり似ていない。特に、中央に小さく並んだジョンとヨーコの脱力具合はひどい)。「Vol.3 ポール・マッカートニー」は『ウィズ・ザ・ビートルズ』を背景にして時代の異なる4人のポール(『マッカートニー』、『マッカートニーⅡ』、『レッド・ローズ・スピードウェイ』、そして現在)を配したもので、4パターンの年代的なバランスは随分悪いが、デザイン的には結構気に入った。ポールも似ているし。
 そんなわけで「段々良くなってきている」と安心していたところに今回の表紙絵。なんだこれ。今回は『アビー・ロード』のジャケットを背景にして、ジョージとリンゴが並んでいるデザイン。まず2人が・・・似てるのかなあ、コレ。ジョージのこの求道者っぽい格好の元ネタが何なのか判らないのは上記のように僕が無知なせい(何かのアルバムの裏ジャケかな)。多分これは似ていると思うのだが、しかし何とも言えない感じだ。
 そしてリンゴ。『グッドナイト・ウィーン』の宇宙服を着ているが、顔は現在。うがちすぎな見方かも知れないが、70年代のリンゴに似せて描けないから、髪型とサングラスが特徴的な現在のリンゴを持ってきたのではないかという気がする。しかもあんまり似てない。
 例えば本秀康の絵だと、あれは「デフォルメされたものである」ということが前提になっているので、雰囲気が出ていさえすれば良いのであって厳密な意味で「似ている」必要はない。この点、故・安西水丸の作風(代表作:村上春樹)なんかと近い(尤も本氏は現在発売中のレココレ8月号でメチャクチャ写実的な4人の絵(その写実さがまた可笑しい)も描いています)。でも浦沢直樹は、なまじ筆致が精密であるせいで却ってそれが許されないんだよなあ。実在の人物を描く以上はきちんと似ていないといけない画風なのだ。
 更に、背景。こんなのネタ放り込み放題じゃないかと思うのだが、僕が気付いたのはダーク・ホース君、グッドナイト・ウィーン君、そして例の「28IF」の所に「33 1/3」(これ誰でも思いつくよな)くらい。もし他にもあったら御教示願いたい。
 なんかもっとさあ、あっただろう。例えば車を1台『ベスト・オブ・ジョージ・ハリスン』の黄色い奴(本文で和久井氏が「農業用に見える」と書いているのには笑った)に差し替えるとかさ、オリジナル(アビー・ロード)のジャケットで右側にいたおじさんを『オール・シングズ〜』の小人とか『バック・オフ・ブーガルー』のフランケンシュタインに差し替えるとかさ。
 ということで、流石にVol.1よりはナンボかマシとは言え、なんか気合い入っていない。和久井氏はジョージ派だそうだが、こんなので満足したのかなあ。上記の「33 1/3」だって、「1/3」の3が梵字になっていないしさあ。愛だか気合いだかが、足りないよなあ。
 絵自体は綺麗なので、何度も見ていると「まあコレでいいか」と思えて来もするのだが・・・。


 表紙絵についてはこの辺にしておいて、肝心の内容なのだが、上述のように作品自体をまだ殆ど知らないので、和久井氏の論評の是非は全然判断できない。そもそも、文章を読むよりはデータ・ブックとして購入したという面も少なくない。それでも、知らない作品についての文章なのに結構面白く読めてしまうのは大したものだ。文体の硬軟の使い分けが結構僕好みである。
 ただ、データ・ブックとしての利用が第一目的である身からすると、セッション参加作の扱いをおざなりにしているのは結構残念。特にリンゴのドラマーとしての参加作を基本的に割愛しているというのは頂けない。「多すぎるから」ということであったが、レコード名の羅列で構わないのでもう一踏ん張り欲しかった。B.B.キングがロンドン(アビーロードだっけ?)で録ったアルバムに変名で参加しているんだよな。71,2年だったと思うが。
 映像作品(こちらは網羅的なものかな?)についての情報は嬉しい。リンゴがチューハイか何かのテレビCMで「りんごすった〜」と呟いていたのは幼少時代の記憶に残っているが(96年らしい。僕は9歳か・・・)、これが日本でのCM出演3本目であるというのには驚いた。てっきり唯一無二と思っていたが。


 それはともかく、本書を読んでいると、とりあえず聴こう、という気にさせてくれる。ということで、まずは評判の良いリンゴの初ベスト盤『想い出を映して』(75年)をYouTubeで聴いてみる。まだBGMにしかしていなくってちゃんと聞き込んでいないのだが、これは確かに良さそうだ。全10曲というのも手頃である。これって全部ドラムはリンゴなのかなあ。好きな曲「オー・マイ・マイ」(知ってるんじゃん)が入っているのも嬉しい。

 ジャケットも悪くない(3Dメガネで見ると飛び出してきそう)。CDで欲しいのだが、これって90年代に出たっきり再発されていないようですね。『リンゴ』とか『グッドナイト・ウィーン』なんかは紙ジャケで出し直しているみたいだけど。近年のベスト盤として『フォトグラフ ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・リンゴ・スター』(07年)というのが出ていて、良さそうなのだが、曲数が多いんだよなあ。「大は小を兼ねる」とは言うものの、聴き疲れしそうだ。
 ジョージは何から聴こうかな。『オール・シングズ〜』から辿っていくのが良いか。その前に『不思議の壁』『電子音楽の世界』ってのもあるが(この2作ってビートルズ解散前だったんだ・・・)。
 補記:と書いていたら、ジョージのアップル時代のボックス・セット"The Apple Years"が9月に出るそうですね(CD7枚+DVD?)。うーん、いや多分手は出せないけれども。