こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

今週の音楽(2014年2月24日〜3月2日)

・エラ・フィツジェラルド『Sings the Cole Porter Song Book』
 人から貸してもらった村上春樹和田誠『村上ソングス』を読んでいたらエラ・フィツジェラルドが聴きたくなって、図書館で借りてきた2枚組CD。オリジナルは1956年で、コール・ポーターの楽曲だけを取り上げて、片面8曲ずつ、LP2枚に収めた(つまり計32曲)アルバム。『村上ソングス』に取り上げられている「ミス・オーティスは残念ながら(Miss Otis Regrets)」も収録されている。
 エラが何人かのソングライターについてこのような「ソングブック」を吹き込んでいるということは一応知ってはいたのだが、聴くのは初めて。本作はその第1弾だそうだ。
 実は一聴したところではあまり面白く思わなかったのだが、二聴目から俄然、良いと思うようになってきた。
 先述の「ミス・オーティス」や、正に真打登場!という感じの「You're the Top」を始め、好きな曲は幾つもあるが、特に印象深いのは1枚目のB面(尤も2枚目の裏面のことはD面というから、B面と言えば1枚目に限る)の1曲目、「Let's Do It(Let's Fall in Love)」である。冒頭のフレーズはこう。


  Birds do it, bees do it
  Even educated fleas do it
  Let's do it
  Let's fall in love


  鳥たちもしてる、蜂たちもしてる
  蚤の中の頭のいいヤツさえしてること
  私たちもしましょうよ
  恋をしましょ 


 この後も延々と色々な生き物や人々が引き合いに出されるのだが、何故かしらクラゲや電気ウナギや金魚など、水中生物が頻繁に出て来る。とにかく歌詞が面白いし、テーマもシンプルだし、勿論歌唱も良いし、聴いていてホクホクと楽しくなる曲である。
 なおLPの32曲に加えて、CDにはアウトテイクが3曲入っているが、その内の1曲がこの「Let's Do It」で、LPに採用されたテイクよりも歌詞が長い(則ち、例えの数が多い)。これも面白いです。

SINGS THE COLE PORTER SONG BOOK(2CD)

SINGS THE COLE PORTER SONG BOOK(2CD)


忌野清志郎 Little Screaming Revue『Groovin' Time』
 何気なく図書館で借りてきて初めて聴いたアルバムだが、すげえですよコレは。RCを含め、忌野清志郎によるアルバムの、今まで聴いた中で最も完成度の高い一作ではないかと思う。
 RC初期のレパートリーの再演である「ガラクタ」を皮切りに、まずロック度が高いのが嬉しい。特に藤井裕のブリブリのベースがハードロック少年の僕の心を掻き立てる。また、楽曲面も演奏面も、単純過ぎず複雑過ぎない、程良い凝り具合の音楽なのが僕好みだ。管楽器やストリングスの入れ方も、ちょっと初期のフランク・ザッパっぽくて面白い。
 「裏切り者のテーマ」や「夢見るグルーヴィン・タイム」では、コード進行がぎこちないようなところもあるが、各々のフレーズが魅力的なのでさして気にせずに音楽に入っていける。
 どの曲も良いが、なんと言っても最後の「夢見るグルーヴィン・タイム」が素晴らしい。清志郎のよくあるバラードかと思ったらサビでロック風に流れていくのが嬉しい。そしてインド風のストリングスが超格好良い。各曲がもう少し短いと良いんだがなあと思うのだが、この曲はこの長さでいい。
 あと、このアルバムは非常に録音が良いと感じる。伴奏の音も良いし(分離が良いというか)、清志郎の声が生々しく響いている。
 それにしても歌詞だ。清志郎が天才詩人であることは充分判っていたつもりだが、改めて驚かされる。良い歌詞というのは「発想の良さ」と「言葉の良さ」に大別されるように思うが、前者の例は「ソングライター」だ。


  君が眠ってるあいだに この歌を書いたのさ
  朝までかかって やっと作り上げたよ
  夜中に雨が降ったこと 明け方風が吹いたこと
  知らないだろ Baby
  教えてあげるよ
  君にこの歌をあげるよ


 眠っている間にどんなことがあったか教えてあげることがラブソングになる、という発想に唸らされる。いやーいい歌だ。
 後者(言葉の良さ)の例は、「浮いてる」。これはひたすら「浮いてる浮いてる・・・」と歌う曲なので、容易に退屈になりかねないのだが、「どうも浮いてる またもや浮いてる 立派に浮いてる とめどなく浮いてる」と、毎回別の修飾語(主に副詞)を織り込んでくれ、そしてそれがいちいち面白いので、次にどんな言葉が出て来るかと思うだけで飽きずに聞けてしまう。
 また、「裏切り者のテーマ」の、


  この歌は「裏切り者のテーマ」という歌さ
  ・・・いい歌だろう?


 というのも凄い。この曲は特定の個人に宛てて作られた歌だそうなので、そのことが功を奏して生まれた名フレーズと言えよう(字面からは当然伝わらないが、「いい歌だろう?」のボーカルは皮肉っぽいフンイキがバリバリ出ていて、何とも言えず良い)。特に僕は、最初にこの歌を聴いた時に、聴きながら「これ何ていうタイトルかな?」と思っていたら歌手自らが教えてくれたので驚いてしまった。
 あと「不真面目にいこう」の「遙か彼方にしけこむ算段」というのにも唸らされる。歌詞を書こうという時に「算段」なんて言葉思いつかないよ。実は、「まして現実はもうタクサンだ」の「サンだ」と韻を踏んでいるわけなのだが、それにしても。
 RCがヒマな時に彼はヘッセなどをよく読んでいた、という話は有名だが、やっぱり文語とまではいかないまでも書き言葉に沢山触れるということは非常に大事だと感じる。そして只それだけでなく、普段の話し言葉とそうした書き言葉とを縦横無尽に行き来できるというのが、彼の天才たる所以なのだろう。
 なお本作は1997年リリース。同年にはこんなライブ演奏も。
 

GROOVIN’TIME

GROOVIN’TIME

 
ウルフルズサンキュー・フォー・ザ・ミュージック
 ウルフルズトータス松本であると誰しも思っていたわけであるが、2009年のウルフルズ活動休止後のトータスのソロ作はどうもパッとしなかった(少なくとも、僕にとっては)。ウルフルズをやりながら出したソロ・アルバム『トラベラー』は良かったけど(ソウルのカバー集だが、実は最後の「Over The Rainbow 〜 yahho!」が一番良い)。
 そんなワケで活動再開の一報を寿いで、大好きなアルバム『サンキュー・フォー・ザ・ミュージック』を聴き直す。デビューからこのアルバム辺りまでのウルフルズというのは、マジで初期ビートルズに準えたくなるくらいに名曲シングルを連発しているが、前作『レッツ・ゴー』がアルバムとしてはちょっと弱いかなあと感じられるのに対して、本作はシングル曲もそれ以外も粒揃いである。
 タイトル曲で始まり、「あそぼう」で終わる、素晴らしいアルバム(「あそぼう」のPVは泣けます)。
 色々な曲が入っていて40分程度で終わり、サイズ的にも理想的だ。
 ウルフルズのシングル曲で一番好きなもの(の一つ)である「かわいいひと」も入っている(当時は8cmCDで、ジャケットはフライングVのケースを背負ったおばあさんだったと記憶する。この曲は最近CMでも使われていた)。最高の怪作「全日本昔話全選手権」も聞ける。
サンキュー・フォー・ザ・ミュージック

サンキュー・フォー・ザ・ミュージック


ザ・ビーチ・ボーイズ『The SMiLE Sessions』
 ビーチ・ボーイズが来日するそうですね。彼らに限らずこの春先は、クラプトン、ストーンズボブ・ディランTOTO、ディープ・パープル、ジェフ・ベックジョニー・ウィンターと、ほとほと困惑するくらいのラッシュ度合い(他にもいた気がする)(補記:ブライアン・セッツァー・オーケストラも来ることを後で思い出した。行きたい)で大物たちがやってきます。去年はリンゴ・スターヴァン・ヘイレン、キッス、ポール・マッカートニー、ボズ・スキャッグズなんかが来たしなあ。なんか健全じゃない気がするほどである。
 それはそうとこの『The SMiLE Sessions』、邦題が『スマイル』であるせいもあってか、僕はてっきり「今」のビーチ・ボーイズが新たに作り上げた作品かと思ったら、1967年当時の音源を元に構築したものだそうだ(英語版ウィキペディアにははっきりと「a compilation album」とある)。
 2004年の、ブライアン・ウィルソンによる『SMiLE』は当時ビッグ・ニュースになって、僕も図書館でCDを借りてきて聴いた。それまで『Pet Sounds』しか知らなかったもので、「ビーチ・ボーイズにはまだまだこんなに名曲があったのか!」と驚いたものだ。
 その「2004年版」に慣れた耳で聴くと、曲目なんかは充分馴染みがある一方で、音にパンチがない(美しくはあるのだが)という印象も受ける。これが60年代っぽさだ、と言えばそうなのかも知れないが。これはこれで良い、と思いつつも、2004年版があればいいかな、とも感じた。

Smile Sessions

Smile Sessions