こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

祭典の日(Celebration Day)

 レッド・ツェッペリン『祭典の日』を吉祥寺の映画館で観てきた。
 周知の通り、2007年12月の一度限りの再結成ライブを撮影したもので(尤もこのライブが行われた時点では「一度限り」なのかどうかは不明であった)、ライブ直後からブートレグが出回っていたが(私もこの年の年末には知り合いからMDを譲られた記憶がある)、公式にソフト化されたのは5年後の2012年、その発売に合わせて劇場公開されたのを見逃していたので、今回のはまたとないチャンスであった。
 ここで少しロック史のおさらいをしておくと、ジミー・ペイジ率いるニュー・ヤードバーズが「レッド・ツェッペリン」と名前を変え、1枚目のアルバムを録音したのが1968年(リリースは翌年)。ドラマーのジョン・ボーナム(ボンゾ)死去により解散を発表したのが1980年。その後、再結成ライブは何度か行われているが、総じて評価は高くない。専らリハーサル不足によると言われるが、上記の2007年のライブはこのリハを丹念に行った成果か、大絶賛を浴び、私もブートを聴いて驚いたものだった。このライブ自体、ロック史に残る「事件」と言える。
 そんなわけで内容は既によく知っているものだったのだが、映画館の大画面で観ると流石に迫力が違う。冒頭の「Good Times Bad Times」「Ramble On」「Black Dog」でもうお腹いっぱいという感じ。最後まで集中力を切らさずに見られるか心配になったが、演奏のみならず選曲の妙もあってなんとか大丈夫だった。これだけ堪能して1300円だったのだからお得と言う他ない。
 選曲といえば、レッド・ツェッペリンにはシングル・ヒットが殆どなく(何故なら、シングル・カット自体を殆ど行わなかったため)、何を選ぶかというのがその分困難であったかと思われるが、申し分ない選曲と言えるのではないか。よくよく考えれば「Immigrant Song」も「Heartbreaker」も「Communication Breakdown」も演ってないじゃないか、と思い至るのだが、実際にこのライブを「体験」している時には、一曲一曲の密度があまりに高いので、「演奏されなかった曲たち」のことになんか全然気が付かないのだ。
 そう、なんと言っても演奏が素晴らしいのである。メンバーは、今更紹介するのもおこがましいが、ロバート・プラント(ボーカル)、ジミー・ペイジ(ギター)、ジョン・ポール・ジョーンズ(ベース、キーボード)に、ドラムはボンゾの遺児、ジェイソン・ボーナム。映像を観て改めて感じたのが、ジェイソンのドラムがバンドにとって大きな活性剤になっているということである。サウンドはモダンであり生前のボンゾのそれとは大きく異なるが、ドラミングが秘める重さ、音圧の高さはなかなか父を彷彿させるところがある・・・ようにも思われる。「カシミール」のようなゆったりとしたテンポの曲でもしっかり説得力のあるドラミングを聴かせてくれる。
 勿論、オリジナル・メンバーの3人も負けてはいない。3人の平均年齢は60歳を超えているが(プラントのみ当時59歳)、とてもそうは思えないエネルギッシュな演奏である。ロバート・プラント、声がバリバリ出ていて、とても嬉しい。曲のキーを下げてはいるが、原曲の重要なフレーズはしっかり再現してくれている。ジミー・ペイジも姿だけ見るとただの爺さんだが、ペダルもガンガン踏んで、刺激的な音を鳴らしている。ジョン・ポール・ジョーンズは、見た目は殆ど小田和正であるが(そう言えばジミー・ペイジ神保悟志みたいだ)、弾きまくっている(映画館では音の分離があまり良くなく、ベースの音もよく聞こえないことが多かったのは残念だった。この点はCDで補完すべき)。
 どの曲も良かったが、特に上記の冒頭3曲と、本編最後の「Misty Mountain Hop」「Kashmir」、そしてアンコールの「Whole Lotta Love」「Rock And Roll」がとりわけ良かった。「Kashmir」――本編が「Good Times, Bad Times」で始まり「Kashmir」で終わるというだけでもファンには感涙モノだが――この曲は本当に、人間が作ったとは思えないほど美しく荘厳な曲であるが、このライブでも素晴らしい仕上がりになっていた。背景のイルミネーションも曲の雰囲気を盛り上げており、これは是非映像で観てもらいたい。