こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

左弾きベース道中 (2)

 そんなこんなでベースの左弾き練習を始めたのであるが、まずは状況について説明したい。
 そもそも前項でギターギターと書いてきたが、実際には練習するのは主にベースギターである。単音弾きが中心のベースに対してコード弾きをガシガシ使うギターは一層ハードルが高いであろう。それにまあ、ベースだからこそポール・マッカートニーという左弾きへのモチベーションもあろうものだが、ギターだったら別に今のまま右弾きでもいいやと思う。無論、左弾きのギタリストとしては天下の(というか「天上の」と言うべきでしょうか)ジミ・ヘンドリックスがいるわけではあるが、ポールが文句なしに僕のベース・ヒーローであるのに較べると、ジミヘンは、もちろん凄いと思うし大好きなのだけれども、僕にとってのヒーローはむしろジェフ・ベックなのである。若しくは吾妻光良。なのでギターだけならば今更一から練習し直してまで左弾きにこだわる理由はない。
 ついでながら、左弾きのギタリストと言えば僕の好きな範囲で思いつくのは他にはザ・マーズ・ヴォルタのオマーくらいであるが、他に誰がいたっけなと思ってインターネットで検索してみるとギブソンのサイトの「The Left-Handed Gun: 10 Famous Southpaw Guitarists」というページが出て来まして、これの筆頭に挙がっているのはなんとジミヘンではないんですね。では誰かというと、カート・コバーンです。そーかそーかという感じ。や、実はグランジに全然馴染みがないものでして。他にはディック・デイル(名前しか知りません。確かストラトシグネチャー・モデルがあったと記憶しますが)、トニー・アイオミ(サバスも殆ど聴いたことがないんだよなあ実は)、アルバート・キング(忘れてた!)などが挙げられていました。
 ところで、ギターを左弾きするにも幾つか方法があって、大別すると(1)右用のギターをそのまま上下反転させて弾く、(2)右用のギターを上下反転させて、弦の順番も反転させて弾く、(3)左用のギターを弾く、の3つになる。左利きの人が(2)(3)で弾くと右利きの人と同じ条件になるわけである。それに対して(1)は弦の並びが反対になるので変則的である。名付けると、(1)がアルバート・キング式(松崎しげる式ともいう)、(2)がジミ・ヘンドリックス式、(3)がポール・マッカートニー式である。
 僕の場合は、自分の意志の強さにあまり(全然)自信がないこともあって、当座はアルバート・キング式でいくことにした。則ち、手持ちのフェンダー・ジャパンのジャズ・ベースをひっくり返して練習することにしたわけである。これなら挫折しても左弾きチャレンジのための浪費は0円で済む。挫折せずにある程度これに慣れるところまでいったら、左用で安いベースを一本買おう、というわけである。
 さて、まず構えてみると、楽器のバランスが異様に悪い。非対称形の楽器をひっくり返して構えるのだが当たり前ではあるが、ま、これはストラップを着けて立って弾けば良い話である。なお、ジミヘンを見ても判るように右用のギターを左で構える場合にはネック側のエンドピンを逆位置に着けるのが一般的であろうが、実は元の位置のままでも左で構えることは一応可能である。
 体勢が整ったらようやく練習に入る。以下は、練習を始めて10日目くらいまでの状況である。
 右手で押弦、左手でピッキング。両手とも全然動かない。この「動かなさ」を日常的な動作で譬えるのはちょっと難しい。多分、非利き手で文字を書くほどには難しくないだろう。ギターの演奏は筆記ほどには複雑な動きではないので。しかし両手の動きを文字通りリズミカルに合わせなくてはならないことを勘案すると、非利き手でボールを投げたり箸を使ったりするよりは難しいかも知れない。両手をクロスさせてタイピングするよりはずっと難しいです。
 とりあえずフレットの上に指を4本並べて半音階の往復なんかをやってみるわけだが、正にガタガタである。押弦は、今までずっと利き手でやってきたことを非利き手でやるのだからぎこちなくて当然であるが、とにかく指が充分に開かないし、開いても弦がきちんと押さえられず、音がやたらにビビる。これは弦が太く、フレットの間隔も広いベースギターだから余計にそうなるのであろう。
 とにかく指板の上で4本の指がてんでばらばらの方向を向いているさまは、我が体ながら見ていて非常にもどかしい。勿論グリッサンドなんかもロクにできないし、チョーキングはもっとできない。チョーキングは本当に、全然できないです。ミュートなんていう細かい動きも当然駄目。あと、ハンマリングをやろうとして左手が動いてしまうのも仕方ないとは言え物凄く情けない。
 それに対してピッキングの方は、これまで非利き手でやっていたことを利き手でやるんだから、結構スムーズにいくんじゃないかと思ったのだが、やはり甘かった。一番簡単じゃないかと思っていた親指弾きもマトモにできない。2フィンガーも、二指の交互の動きが甚だぎこちない。また複数弦の移動になると動きがストップする。ピック弾きもてんで駄目。ダウンピッキングをゆっくりやるならまだしも、オルタネイトになるとピックがどんどん突っかかる。はねるリズム(所謂シャッフル)が全然できない。トレモロピッキングなんてとんでもない。スラップは試していないが、右弾きでもできないんだから恐らく左でも無理だろう。
 このようにハナから動かないのに加えて、上述の如く、本来は右手を動かさなきゃいけないところ(則ち指板上での動き)で反射的に左手がふよふよと動いてしまったりするのである。悲しい。
 機械的な練習だけじゃなくて曲のフレーズもやらなきゃつまらんということで、予め右弾きでは弾けていたリフもいくつか練習した。一番熱心にやったのはディープ・パープルの「スペース・トラッキン」(イントロと、サビ(?)のベースライン)で、他は「ピーター・ガン」のテーマや、ビートルズ「デイ・トリッパー」、クリーム「サンシャイン・オブ・ユア・ラブ」、レッド・ツェッペリン「ハートブレイカー」、スティーヴィー・ワンダー(というかベック・ボガート&アピスか)「迷信」など。いやしかし名リフばかりですな。初心者に勧めたい。
 しかし当然ながらどれも全然弾けやしない。「スペース・トラッキン」のイントロのリフくらいなら2,3日でなんとかそれらしくなってきたが、それもメトロノームに一緒に弾いてみると詰まってしまって全然合わない。
 なお、これらの複数弦に渡るフレーズをアルバート・キング式に練習すると、後で左用のベースを買った時に逆さまになって困るんじゃないかと思って弦はそのままにしてチューニングだけ1弦からE → A → Dに(4弦は放っておいた)無理矢理チューニングして弾いてみたりしたが、オクターブがめちゃくちゃなのであまりしっくりは来なかった。3弦のDなんかダルダルだったしな。
 そんなこんなで、いい加減ウンザリして右弾きに持ち直して弾いてみると、自分がとんでもなく上手くなったように感じる。これは結構気持ちがよいので、上達に壁を感じているギタリスト・ベーシスト諸君は一度逆弾きで30分くらい練習して、また元に戻してみると良いと思う。(つづく)