こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

関ジャニ∞「イエローパンジーストリート」とビートルズ

 ビートルズの1967年の両A面シングル「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー/ペニー・レイン」は、彼等がリリースした20数枚のシングルの中でも最高の出来と評されるものであるが(まあ、個人的には前年の「ペイパーバック・ライター」(B面は「レイン」)が最強だと思っておりますが)、関ジャニ∞の両A面シングル「T.W.L/イエローパンジーストリート」は、正にビートルズの「ストロベリー〜/ペニー・レイン」に相当する傑作シングルであると私は思う(それはそうと両A面シングルって結局のところ何なのだろうか)。
 関ジャニ∞における「T.W.L/イエロー〜」がビートルズにおける「ストロベリー〜/ペニー・レイン」に相当するというのは、単に2曲とも傑作であるというだけでなく、「ストロベリー〜」がジョン、「ペニー・レイン」がポールという、それぞれの個性を発揮した楽曲であるように、「T.W.L」と「イエロー〜」がそれぞれに関ジャニ∞の全く違った魅力を現出している点にも共通性が感じられる。その違いが、「T.W.L」がダンス・ナンバー、「イエロー〜」がバンド・ナンバーとして明示的に現れているのも面白い。
 ところで 「イエローパンジーストリート」については、ビートルズとの類似性が既にファンのブログなどにおいて指摘されているようである。浅学ながら僕も一ビートルズ・ファンとして、この点について思うところを述べてみたい。


 まず楽曲そのものについてであるが、意外と具体的な要素は指摘しにくい。これは偏に当方の音楽的知識の乏しさに因るものかとも思われるが、差し当たり僕に判るのはピッコロ・トランペットの使用とベースラインくらいである。 「イエロー〜」の終盤で流れるピッコロ・トランペットは、「ペニー・レイン」を意識してのものである。これは間違いないと思う。「たまたま同じ楽器を使っただけだろう」と思う人は、とりあえず一度「ペニー・レイン」を聴いてみて下さい。またベースラインの方は中期ビートルズを連想させるもので、具体的には「レディ・マドンナ」などと似ている。「ハロー・グッドバイ」のベースラインをゆっくりさせたもののようにも聞こえる。似ているというほどではないが、リズムは「アイム・オンリー・スリーピング」のベースラインを連想させないでもない。(1/27追記:曲調は全く違うが、ひょっとして「オブラディ・オブラダ」にも似ているか?)
 ま、逆に言えば音源上であからさまにビートルズしてるのはそのくらいである。あと、非常に穿った見方をすると、ビートルズにもタイトルが「イエロー」から始まる有名な曲があるというのと(ディープなビートルズ・ファンなら「Yellow Matter Custard」を連想する人もいるかも知れないがそこまで言うつもりはない)、また「イエロー・パンジー・ストリート(Yellow Pansy Street)」の頭文字を取ると「YPS」となり、これは逆から読むと「SPY(スパイ)」になるという暗号は、ビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ(Lucy in the Sky with Diamonds)」の頭文字が「LSD」になるという逸話を連想・・・させないでもない。
 しかしまあ、「イエロー〜」をビートルズと強烈に結びつけているのは、何と言っても映像(PV)である。
 まず衣装であるが、襟無しスーツがビートルズが初期に着用したステージ衣装をモチーフにしたものであることは誰の目にも明らかであろう。ではPVで選択された赤という色(ビートルズのステージ衣装で赤というのは見たことがない)は、単に「もろビートルズ」を避けるためかというと、まあそうかも知れないのだが、僕は(これまた)「ペニー・レイン」が影響しているんじゃないかと思う。実はこの曲のPVで、ビートルズの4人は似たような赤色のコートを着ているのである。(余談ながら、「イエロー〜」PVの赤い衣装を見て「スパイダースだ!」と思った人もひょっっっとしたらいるかも知れない。まあその可能性も否定はできないが、結局それも回り回ってビートルズと言って良いのではないか)(2/5補記:こうは書いたものの、81年の再結成コンサートなんかでの衣装は「イエロー〜」のそれとかなりよく似ている。そう言えば人数も一緒だし、思っていたより関係は深いのかも知れない)
 さて、衣装と相まってダイレクトにビートルズを連想させるのが、使用楽器である。以下、ギター、ベース、ドラムについてそれぞれ述べる。


 まず渋谷のアコースティック・ギターであるが、ギブソン社のものを使用している。渋谷はビートルズで言えば誰か?と言えば・・・まあ強いて言えばジョンと答える人が多い・・・ような気がするが、そのジョンがビートルズ時代に使用して有名になっている「J-160E」というアコギは同じくギブソン製である。
 次いで錦戸が弾いているエレキギターについて。錦戸はビートルズで言えば誰か・・・これも敢えて言えばジョンという気がする。で、錦戸がここで弾いているギブソンレス・ポール・ジュニアという機種は、ジョンが弾いていたことで有名なものである。
 安田のエレキギター。安田はリードギターを多く担当しているということで、ビートルズで言えばリードギタリストであったジョージとするのが自然であろう。安田が弾いているのは「急☆上☆Show!!」でも用いられたグレッチのギターであるが、グレッチというのは正にジョージが初期ビートルズで頻用したことで知られている。
 それから丸山のベース。ビートルズのベーシストは言うまでもなくポールである。ビートルズ期のポールのベースは、大雑把に言って初期がヘフナーの500-1、中後期がリッケンバッカーの4001Sであるが、丸ちゃんがPVで弾いているのがこのリッケンバッカー4001Sである。なおリッケンバッカーはジョンやジョージも初期に使用していて、ビートルズのイメージが非常に濃厚なブランドである。ところで、このベースは丸ちゃんの楽器としては見慣れないモデルであるが、「イエロー〜」のテレビ番組での演奏ではこの楽器ではなくお馴染みのナチュラル・カラーのジャズベースを使用しており、このPVの為に敢えてこのベースをレンタルしたと見るのが自然ではないか。更に言えば、PVでは丸ちゃんが珍しくピック弾きをしているのだが、これもピック弾きを主体としていたポール・マッカートニーを念頭に置いたものと思える(これを裏付けるように、テレビ番組での演奏では指弾きをしている)。
 最後に大倉のドラム。リンゴ・スタービートルズ時代に(今もか?)ラディック社のセットを愛用していたのは有名で、ビートルズ・フリークで知られる森高千里(何と言っても「エブリバディーズ・ガット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミー・アンド・マイ・モンキー」という超マイナーな曲のカバーを出しているくらいである)がラディックのドラムを叩いているのもモロにリンゴの影響であろう。そしてPV中の大倉のドラムも同じくラディックのものであることが、バスドラムに印字されたロゴから判る。ついでながら、メイキング映像において錦戸がドラムを叩くシーンがあるが、あそこで妙に背筋を伸ばし、且つ腕の動きを抑えめにして叩いているのは、リンゴ・スターのモノマネをしているのであろう。


 ことほど然様にビートルズをバッチリ意識した外装であるわけだが、面白いのは「もろビートルズ」にはしないで、常にどこかしら「外し」を入れているという点である。衣装について、ビートルズのステージ衣装とは色をはっきり変えてあることは既述の通りであるが、楽器についても実は同様のことが言える。再び一つ一つ見ていこう。


 まず渋谷のアコギであるが、同じギブソン製ではあるがジョンのJ-160Eとは一見して判るくらい見た目が違う。「もろビートルズ」を目指すなら丸山のベースのようにレンタルすれば良かったのに、それをしていない。
 錦戸のレス・ポール・ジュニアは、ジョンが弾いていたものと同じモデルではあるが色が違う。また、ジョンがこのギターを使用したのはビートルズ解散後である。
 安田のグレッチであるが、実は安田はこれ以外に少なくとももう一本グレッチのギターを所有している。「∞SAKAおばちゃんROCK」のPVで使用しているのがそれであるが、カントリー・ジェントルマンというモデルで、色も正にジョージが使用していたものである。一層ジョージに近い機材を持っているのに、それを使っていない。ここにも「外し」の意識が窺える。
 丸山のベース。これはポールと全く同じモデルのようだが、但しカラーリングにやや問題がある。丸ちゃんが弾いているのはファイア・グローという色で、これは確かにポールがリッケンバッカー社から譲られた楽器の当初の色だったらしい。しかしその後でポールは銀のスプレー?などによってサイケデリックな色合いに変化させており(「ハロー・グッドバイ」のPV「愛こそはすべて」のライブ映像などで見られる)、更にビートルズ解散後には新たなバンドであるウイングスにおいて、塗装を剥がしてナチュラル・カラーにしてこれを弾いている。「ポールのリッケン」と言えば普通はこのどちらかの色を連想するのである。また、確かにリッケン4001はポールの使用楽器として有名ではあるが、「もろビートルズ」「もろポール」を演出するならば上述のヘフナー・500-1がより相応しい。なにしろコレは「ビートル・ベース」と呼ばれているほどの楽器なのである。リッケンだと他にもロジャー・グローヴァー(ディープ・パープル)やクリス・スクワイア(イエス)のような有名な使い手がいる。
 最後に大倉のドラム。リンゴのドラムと言えば既述のようにラディックであるが、「ビートルズのドラム」として印象的なのはバスドラムにでかでかと印字された「THE BEATLES」のロゴマークである。このPVでも、苟くも「ビートルズ風」を目指すのならば何らかのロゴを入れておくのが当然の処置である。しかし実際にはラディックのロゴこそあれ、バスドラムは白いままである。


 以上より、本PVが、(1)楽曲自体の「ビートルズ調」をかなり増幅する形でビートルズを志向していること、そしてその一方で、(2)実に巧妙に「外し」を入れて、「もろビートルズ」を避けていること、この2点は明らかであると僕には思われるのである。
 言うまでもなくビートルズは世界で最も有名なバンドの一つであるから、「もろビートルズ」を実行することは可能である。それを実際にやると奥田民生ローリー寺西みたいになっていくわけであって、それはそれで僕は大好きなのだが、「イエロー〜」においてそれをやらなかったのは、関ジャニ∞のファン層に対して効果が薄いということもあろうし、また「ビートルズのフリ」をすることよりも、「ビートルズではないけれども恰もビートルズのような、素晴らしい何か」として関ジャニ∞をアピールしたかったのではないだろうか、などと個人的には想像をたくましくしているのである。
 想像ついでにもう一点だけ書くと、斉藤和義がこれ以上ないくらいに「もろビートルズ」のPVを2010年に発表している(「ずっと好きだった」。なお2011年の「やさしくなりたい」でも同様の趣向でPVを作っている)。錦戸辺りがこれを観て「俺らもPVでビートルズやろうや!」と言い出したのではなかろうか・・・有り得ない話ではないと思うんだけど、どうなんでしょう。「イエロー〜」発売時の雑誌インタビューとかで何か語っていないかな? 興味あるところである。