吐く息も白くなる季節となりました。僕にとってのナンバー1クリスマス・ソングはなんといっても大滝詠一の「クリスマス音頭」とヒカシューの「天国を覗きたい」であるが、どっこい関ジャニ∞の『GIFT』もかなりのものである。
『GIFT』の白・赤・緑は同時発売だったと勝手に思い込んでいたのだが、実際には23,24,25日と連日で出たんですってね。今更ながら。全7曲で、888円×3=約2700円か、と思うと高いような気もするが、この7曲がちょっとびっくりするくらいに粒ぞろいなので我慢できる(我慢っつっても僕はブックオフにて1枚300円で買ったので何も我慢しちゃいないわけだが)。
考えてみれば関ジャニは自分たちで曲は書いていないわけで(正確に言えば、書いてはいるのだがその作品を自分たちのリリース曲の主体にはしていない、ということです。言わずもがな)、沢山の人に楽曲を受注して良いものをセレクトすればいいのだから良作が集まって当然、と思われる。しかし実際には必ずしもそうはなっていないわけで、良い曲もあるがどうってことない曲もある、というのが実情である。
それがどうして『GIFT』にこんなに質の高い楽曲が集まったのか、単なる偶然なのか僕の好みにたまたまフィットしただけか、詳細は全く不明であるがともかくめでたい話である。個人的には、もしこの7曲を1年に1曲ずつクリスマスの時期にリリースしていたら、関ジャニ∞は広瀬香美と並ぶ冬物ソングの定番歌手と認められていたのではないか、と思われてならない。もしそうしていれば今年(2012年)には「マイナス100度の恋」がリリースされていたところだ。惜しいなあー。
話変わって、ブックレット末に「jacket pics & jaclet idea by KANJANI∞」「label designs by Yasuda Shota」とある。僕は関ジャニ∞のCDジャケットにはあんまり名作がないと思っているのだが、『GIFT』はなかなか良い。特に緑が良い。赤も楽しい(渋谷は物ボケをしているということで良いのですね?)。白はそんなに。
グループ名の「∞」が結んだ赤リボンで表されている点も、細かいところに芸が効いている。これも安田のアイディアかしらん。
ブックレットもポラロイドカメラ風(実際にはポラロイドではこんなに綺麗には撮れないと思うが)でシングルとは思えぬほど力が入っている。『8EST』通常盤によって楽曲的には全くチェック不要となってしまった『GIFT』であるが、こうした点で今なお訴求するところがある。ついでながら、『白』のブックレットの丸山のところで「なが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いおつきあい」とあるのは、京都銀行のテレビCMが元ネタです。関西人には自明のことながら。
以下各曲の感想。白・赤・緑で一日ずつ更新していこうかとも思ったがちょっと億劫なので一挙に。
白1. 冬恋
上でさんざん誉めておいてのっけからナンだが、この曲は7曲の中で比較的(僕にとって)評価の低い曲である。作者は名曲「ブリュレ」の田中秀典。非常にキャッチ―で良いことは良いのだが(これをタイトル曲にしたシングルを打たなかったというのは大したもんである。かなり贅沢)、「セツナサヒラヒラ」云々というところがどうも甘すぎる。Jポップの王道すぎるのがちょっと面映ゆいというか。タイトルもなんかケータイ小説みたいである。2番後のハモリが効いたラップっぽい部分は面白いと思います。
Aメロのメロディーは結構難しそうで、冒頭の錦戸・大倉は、及第点ではあるがもう一押し欲しい感じ。
丸山が美味しいトコもらってます。最後の大サビに被さってくる渋谷の「Woh 〜♪」もええでんなあ(補注、渋谷でなく安田である旨、御指摘頂きました。聞き返してみると確かに安田である。YouTubeに上がっているテレビ番組の歌唱でも確かに安田が担当している。失礼致しました)。
ところで「言えずのごめんね」ってなかなかのフレーズだと思いませんか。なんか「寝ずの番」とか「開かずの踏切」みたいだ。言わんとすることはよく判るのだが。
(補註。KANに「言えずのI LOVE YOU」という曲があるそうです。直接の関係はないと思うが)
白2. 君の歌をうたう
これですよ、これ。クリスマス・ソングとして殆どケチのつけようがない1曲。古典的傑作と呼んでもいい。
いわゆるAメロ→Bメロ→サビというJ-POPの基本的な形ではなく、A→B→オチ(?)のような、アメリカのポップスのような構成になっていて、シンプルでありながら、メロディーが活き活きとしていて全く退屈させない。間奏でビブラフォンが鳴っているのもジャズ風且つクリスマス風で楽しい。間奏の後半はエレクトリック・ギターのソロで、錦戸がスキャットを付けている。ライブではこれが殆どオッサンの鼻歌状態になっているが、それもまた御愛嬌。
伴奏はゴージャスでありながら歌のバックでは抑え目で、その分各人のボーカルがしっかり堪能できるところも大変良い。村上も頑張ってます。
イントロ(出だしがまたカッコエエ!)が短いのも潔い。アウトロは結構長いが、これもコンサートでは削ってある。カットには批判的な私ではあるが、このカットは上手くいっている。
クリスマス・ソングと言えば洋楽にスタンダード・ナンバーとなった名曲も数多いわけであるが、それらの中にあって堂々としていられる見事な1曲。作者はTAKESHI。彼が関ジャニに提供した良作は多いが、その中でも1,2を争う名曲と思います。
歌詞でギターで弾き語るというシーンが描かれているが、この曲を一人で弾き語りしようとすると♪Tu tu tururu... というコーラスの部分がどうもサマにならないのが悲しい。それでもピアノ・スコア集にこの曲を入れてくれたのは大変に嬉しかった。
歌詞は「冬恋」と同様に失恋がテーマになっているが、「別れた」「体の調子も悪い」と歌いつつ曲自体はカラっと明るいのも、これまたなんかアメリカの昔のポップスっぽい感じがして格好良い。
なお編曲はTAKESHIと久米康隆。久米氏はTAKESHI氏の楽曲に編曲で参加することが多いようで、このタッグで提供された曲には「情熱Party」「急☆上☆Show!!」「浮世踊リビト」「Jackhammer」「ほろりメロディー」「イエローパンジーストリート」と、びっくりするくらいに名曲が揃っています。今後もどんどん提供していってもらいたい。
赤1. I wish
芸のないタイトルではあるが曲はとびきり良い。『白』のリード・トラックである「冬恋」がバリバリのJポップだったのに較べると、こちらはアメリカのポップスの王道という感じ。「君の歌をうたう」が相手取るアメリカン・ポップスよりももっと新しい、マライア・キャリーの「All I Want for Christmas is You」なんかとタメを張れそうな感じ。しつこいようだが、これもタイトル曲にしないで飽くまで『GIFT』の1曲としたのは、ちょっと勿体ないくらい贅沢。詞曲はサイトウヨシヒロ。翌年に丸山のソロ曲「Kick」(これもかなり良い)を提供してくれます。
1番ではソロがなくユニゾン主体なのに対して、2番では錦戸・渋谷のソロを結構大きく取っていて、対照的で面白い。なお2番のAメロ2回目、錦戸のハモリが過剰なくらいに大きく録られていてこれもちょっと面白い。余談ながら『GIFT』全体を翌年の『8UPPERS』と較べると、まだまだ渋谷・錦戸以外のメンバーのフィーチュア度合いが低いなと思います。
サビのコーラスはベン・フォールズ・ファイブの名曲「Whrere's Summer B?」を連想させる。お洒落なピアノの利かせ方もちょっとベン・フォールズ風。
赤2. マイナス100度の恋
これもB面?にしておくには勿体ない。基本はAメロ→Bメロ(サビ)というシンプルな構成。特にAメロがなるべく安直から離れようとするかのように凝った旋律で、大変お洒落。かなり難しいメロディーと思うのだが、これをまた渋谷が完璧に歌いこなしている。やっぱりなんだかんだ言って(誰もなんだかんだ言っちゃいないか)偉いですこの人は。
Aメロは1番で渋谷・錦戸、2番で大倉・村上が歌っているが、この中では渋谷が群を抜いてメロディーを「掴んで」いる。錦戸も決して悪くないがややぎこちない感も(まあそのぎこちなさがこの人の持ち味だと言ってしまえばそんな気もするが)。2番はだいぶ分が悪い。大倉もちょっと歌詞が聴き取りがたい歌唱だし、村上もここでは適役とは言えない。
アレンジは、音数が比較的少ないバンド・サウンドで、アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターがそれぞれに利いていて格好良い。
歌詞は別れた相手に未練がある男の歌で(「冬恋」もそんな歌じゃなかったか? あら、「君の歌をうたう」もか?)、相手の女性の心情が窺える描写は、一言しか描かれない。
則ち、
君はそっと時計を覗き込んだ
である。
これは凄いね。この1フレーズだけで主人公に対する女性の心的距離がハッキリと伝わってくる。「そっと」というのがまた抜群の効果を出している。「マイナス100度の辛すぎる思い出」が具体的に語られないのも面白いけれど、この曲の詞のキモはこの「君はそっと・・・」の一文に尽きて、後は大凡オマケと受け取って良いように思う。
さてそれに対する2番の後のCメロ。これも面白いのだが(横山→渋谷という流れも新鮮な感じがする)、こちらはちょっとお洒落とは言い難い。何しろ「君はーー俺ーにミレーンはなーーーーーーーいーのーかーーーいーー」である。力を入れて歌うには相当恥ずかしい。これはちょっと渋谷もリハで笑ったのではないか。全体的にはお洒落な感じでまとめてあるのに、どうしてこんなミもフタもないフレーズを入れたのだろうか。
作詞作曲は共に名曲「渇いた花」のコダマックス。
緑1. 雪をください
これもまた素晴らしい。『白』と『赤』のリード・トラックがそれぞれ堂々たるJポップ、アメリカン・ポップスであるのに対して、この曲は、勿論ポップスではあるのだが、ドラムのフレーズやエレキギターの歪ませ方など、なかなかにロックしている。特にこの中音域の効いたドラムはかなり僕好み。誰が叩いているのか知りたいが、シングルだとクレジットがない。これは本当に悪しき伝統だと思う。
それはそうとこの曲バンドで演ればいいのにね。ぴったりだと思うんだけど。演ってるのかしらん。
イントロのコーラス「I wish for snow」が、繰り返される度にハーモニーが変わっていくのが美しい。そしてゆったりとしたAメロ。ここからしてもう「これは(も)名曲やろ!」と予感させる。
1番Bメロの横山も、相変わらず上手いというのではないのだが、良い具合に魅力が出ている(2番の村上もなかなか良い)。「作りたいよ・ね!」というサビへの繋げ方も鳥肌モノ。合唱とソロが交互に来るサビも上出来である。
「トキめいた」云々というCメロも良い。全体的に、要所要所でハモリが効いているのも楽しい。
提供してくれたnojo・工藤勝洋のペアは、翌年には村上のソロ曲「Dear...」という・・・僕が全く好きでない曲も書いている。
緑2. One day in winter
この曲は随分アレンジが他の曲に較べて浮いているというか(編曲はお馴染み高橋浩一郎)、なんだか少女向けアニメ(おじゃ魔女ドレミかなんか)のテーマソングのようなゴテゴテしたイントロである。
Aメロを聴いている分にはあんまり大した曲に思えないのだが、Bメロの後半(♪この先はまだまだ…)でいきなりぐんとキャッチーになって、一気に良くなる。サビのうねるようなメロディーはかなり気持ち良い。
作詞はM.comで、これは丸山隆平のことであるらしい。この歌詞の大変良いところは、サビの「One day in winter I promised to me」という一文のメロディーが本来(英語)のアクセント及び音節数と綺麗に一致していることで、Jポップの英文にありがちなぎこちなさが一切感じられない点である。この部分が聴いていて気持ちよいのは歌詞が上手く乗っているお陰も大きいと思う。まあ「promised to myself」とあるのが正統ではないかとは思われるが、これは自らを第三者的に見ていると捉えて処理可能である・・・と思われる。
Cメロの英文は何と言っているのか聞き取れなかったが、歌詞カードを見るに「Scream in the west side sky」という。なんか早口言葉みたいである。
なお作曲は日暮和広。関ジャニ∞で他に曲を提供しているかどうか知りません。
緑3. Snow White
3部作最後の『緑』だけ1曲多い3曲入り。お得な気分が味わえます。
御存知の通り錦戸と安田の共作。やや地味で、起伏に乏しいように思えるが、メロディーもなかなか綺麗だし、クールに上手くまとまっているようだ。結構聴かせる。
この曲はピアノ・スコア集に譜面が載っているので、コードを見ながらギターで弾き語りをしてみたのだが、その時に初めて気がついたのはこの曲はコードの進行が殆ど一通り(則ち Cmaj7→D→Bm7→Em)でずっと進んでいるということだった。起伏に乏しい理由はここにあるのだろうが、メロディーだけ聴いていると全然そんな風に思えない。面白い。この単層的なコード進行とシンプルなブレイク・ビーツ(というのか?)の組み合わせが、落ち着いたクラブ・ミュージックのような雰囲気を作っているが、音楽としては飽くまでもポップスである。
歌い出しは錦戸で締め括りは安田。これは曲作りの時点でそうしようと決めていた、というようなことを新聞(なんか連載やってましたよね)で読んだ記憶がある(再び補注。歌い出しも安田である旨、こちらも御指摘頂いた。誰が聴いても安田である。すみません)。2番Bメロを横山が丸々歌っているのも注目。2番Aメロ前半の村上もなかなかに良い。自作曲だけあって各人に見せ所を用意してあって楽しめる。
歌詞の男は、恋人と既に別れたようであるが、「君がくれるサプライズ」というフレーズからするとまだ別れてはいないようでもある。歌詞は一見大したことないようでもあるが、「夜空舞う君が僕の肩を撫でて」というのはよく見ると結構凄いフレーズですよね。まあ雪のことなのだろうけれど、それをずばり「君」と言い換えることでかなりアクロバティックな表現が生まれている。シャガール的と言って言えないこともないな。
また、個人的には「白くなって消えたのはアイシテルの言葉かな」というフレーズも面白く感じる。
アレンジも良い。ピアノにエレキべースのハーモニクス音を重ねたイントロが静かで美しい。シンプルな打ち込みのビート(「∞祭」のアンプラグド風のセットでもこの曲ではリズムが打ち込みだった)が基底にあって、その上にピアノや弦楽といったアコースティックな楽器が綺麗に重なっている。終盤には子供のコーラスらしきものも小さく入っていて、凝っている。全体がクールな中、後盤の間奏で弦楽がかなり「泣き」のフレーズを奏でているのも良い。
編曲は葉山拓亮。作詞作曲もやっていて、「Brilliant Blue」「トリックスター」「Fight for the Eight」「ルリルラ」なんかが僕は好きです。