こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

『ジャム』感想(各論篇1)

ボヤボヤしている内にクリスマスも過ぎてしまった。皆さんは『GIFT』を聴かれましたか? 私は聴いた。いま聴いてもやっぱり名曲ばっかりだ。聴き損ねた方は今からでも『∞EST』か何かで聴いて下さい。こんな記事もありますよ。
それはそれとして『ジャム』である。前回の「総論篇」で書き損ねたことを一つ。以前、本作について「予想したよりも良かった」というようなことを書いたが、事前の期待度が低かった理由について。
リリース前から、本作には『関ジャム』での共演者からの楽曲提供が多いことが告知されていて、実際シングル曲以外はほぼ全てその関連からの提供曲となったようだが、そうすると「全体の統一感」への危機感ということがどうしても気になってくる。つまり「ある程度それぞれに魅力的ではあるが、まとまりのないアルバム」になるのではないか、と恐れたのである。
しかしこれは杞憂であった。聴いてみると、思いの外にバランスの良い仕上がりになっているではないか(むしろ安田持ち込みの「Never Say Never」が浮いているようにも感じる)。曲数を12曲とかなり抑えた(これまでに較べると)のも功を奏していると思う。その点は良かった。ただ、先にも書いたように各々の楽曲にもう少しパワーがあればなあと惜しまれること頻りである。


1. 罪と夏
この曲は、シングルで発売される時にCMで何度も耳にしたが、正直その時には「そこそこの曲」という印象だった。シングルは結局買わなかったので、このアルバムで初めて1曲通して聴いたのだが、「こんなに素晴らしい曲だったのか!!」と本当に驚かされた。
尤も、CMでその魅力が判らなかったのも無理はない。というのも、この曲の魅力は「コントラスト」にあるからだ。何と何のコントラストかと言えば、「チャラさ」と「マジ」のコントラストである。
順を追って見てみよう。
まずイントロは、なんとベンチャーズの「パイプライン」(尤もオリジナルはベンチャーズではなくシャンテイズ)の引用から始まる。安物のラジカセから流れるようなチープな音で、巻き戻しを模したサウンドが「テープ感」を強めている。ここに「来たぜ夏!」「燃え燃えよ」云々という珍妙なヒップホップ調の歌が被さることで、「昔懐かしの夏」のイメージをぶち破って現代の軽薄な若者達が飛び出してきたようなイメージを与える。つまり冒頭は「チャラいなあ」というイメージ。
そこから間奏、Aメロ(「ほら見つけた、愛のビーナス」云々)になると、今度は爽やかなサウンドとメロディーになる。「あれ、実は割と聞きやすい曲なのかな」と感じる、ここが第一のコントラスト。
ところが、続くBメロではミクスチャーロックっぽいサウンドに展開し、歌詞も「誘ってんじゃね?」云々。「やっぱりチャラいじゃん」となる。更にそれに続くサビ前「真夏の俺等は罪・罪・罪なのさ」は(メロディーはグループサウンズ風)、誰が聴いてもダメ押しのチャラさとなっている(ご丁寧に「いや〜ん」という軽薄な合いの手まで付いている)。
ところが、このチャラさの極みに繋がるサビは何かというと、「マジだぜ!」という歌詞に始まる、重厚さ、シリアスさ、そして性急さを備えたまさしく「マジ」な音楽なのである。このような音楽そのものはそれほど物珍しいものではないが、先に立つ「チャラさ」から一転してここに展開するという、そのコントラストの妙義によって、このサビは本来以上の刺激と感動を与えてくれるのだ。
この展開は2番でも、そして間奏後の大サビでも同様である。実は大サビでは直前のフレーズが1・2番とは違い、曲冒頭のものと差し替えられている(「プレイバック!」というフレーズに注意)。ところがこの冒頭のフレーズも先ほど述べたように「チャラさ」の際立つものなので、サビへと展開するコントラストは1・2番と同様に、いやむしろ、大サビならではのアレンジの変化と相まって、この曲中で最大限に働いていると言えるだろう。マジな話、私はこの大サビの「マジだぜ」という渋谷の高らかな歌唱を聴く度に、涙ぐんでしまう。
そして最後、間奏を挟んで「N・A・T・S・U」云々というフレーズがエンディングを飾る。このフレーズ自体はベイ・シティ・ローラーズ「サタデー・ナイト」を借用したもので誰の耳にも馴染み深いものである(別の言い方をすれば、凡庸)のだが、しかし言葉を詰め込みまくることによって何とも言えずスリリングな効果が出ている。締め括りの「ガンガン強炭酸、ハートがビートの夏!」という部分は、何度聞いても最高に気持ちよい。
難を言えば全体的に歌詞が聞き取りにくいことか。そこは損をしていると思う。但しそれも音楽的なコントラストにはそれほど大きな影響を与えないのであった。
最後に、全くの余談を一つ。この曲の題名がドストエフスキーの傑作小説『罪と罰』をもじったものであることは言うまでもないが、実は元ネタの『罪と罰』も夏のシーンから始まる。ロシアの小説なのに意外ですね。


2. 今
そんなわけで前曲「罪と夏」は、アルバムの冒頭を飾るのに最高の1曲ではあるのだが、ただ1曲目がシングル曲であるということをどう見るか、ということもファンには気にかかるところだろう。関ジャニ∞のアルバムで、オープニングがシングル曲なのは本作が初めてである。それはこの「罪と夏」という曲をそれほど高く評価してのこととも言えようが、穿った見方をすれば「オープニングに持ってこられるほどの質の曲を用意できなかった」とも取れる。
で、続く2曲目がまさに、これまでのアルバムであればオープニングに配されていただろう曲。PVもあることだし、曲もかなり良い出来なので、これをオープニングにしても良かったと思うが、アルバムの全体のイメージを担う物として「罪と夏」に軍配が上がったということだろうか。
詞曲は布施明、じゃなかった「ニセ明」こと星野源の提供、そして編曲は菅野よう子、と豪華メンツである。
楽曲は、布施明を想起させるとまでは行かないものの、バンド・サウンドと弦楽・ブラスが鮮やかに入り乱れていて、確かに「夜のヒットサウンド」などで見馴れたバック・バンドに演奏してもらうのが似合う、ゴージャスな曲である。大サビの転調も気持ちよい。大サビと言えば、16分音符でクレッシェンドしてくるドラムも鳥肌モノの格好良さだ。
歌詞は抽象度が高いのでややもすると聞き逃しがちだが、腰を据えて聴くとなかなか深いことを歌っている(ような気がする)。「夢の中から/水の底から/手を伸ばし君の掌つないだ」なんて、アニメのオープニング曲の映像なんかにマッチしそうな、実に美しい情景を歌っていると思う。
メロディーも良い。特にサビ前半の大らかなメロディーは普遍的なものと言えるだろう。というか、「普遍的」と言いつつ、このメロディーどこかで聴いたことあるんだよなあ、とずっと気になっていたのだが、ある日ハッと思い出した。ヴィッキー・カー(Vikki Carr)の「この愛に生きて(It must be him)」である。既に指摘している人もあるかも知れないが、自分で思い出した記念に敢えて記す。

※この動画の1:00ごろ参照。


3. DO NA I
作曲は蔦谷好位置、作者はいしわたり淳治と、どちらも『関ジャム』常連ということで、このアルバムが出る時に『関ジャム』で特集を組んだ時にも重点的に取り上げられ、スタジオで披露もした一曲であった。しかし私の中では評価が低い。点数で言うと70〜75点くらい。
曲は良い。イントロなんか格好良いし。終盤もっとサウンドを盛り上げていくかと思いきや、割と一定のテンションを保ち続けたのも面白い。あと録音も良いと思う。
低評価の理由は専ら歌詞にある。先述の『関ジャム』特集回で語られたところによると、作曲者の蔦谷好位置は作詞について幾つか具体的なリクエストを付けていて、その内の一つが確か「サビ頭にキャッチーなフレーズを入れる」であったと記憶する。で、実際にいしわたり淳治が書き上げた歌詞を見て蔦谷好位置は「リクエスト全てに見事に応えている」と感嘆するのであったが、私には全くそのように思えない。
念のために確認しておくと、上述の「サビ頭のフレーズ」とは「イイトコなしのEveryday」である。
うーん。キャッチーかコレ? 何とも言えんなあ、というのが私の感想なのだが。
このサビ頭のメロディーはこの後にも何度も出てくるのだが、それらに付された歌詞をついでに拾ってみると「A to ZのEverything」「ニイちゃんネエちゃんShake your hips!」「ジイちゃんバアちゃんShake your hips!」…とある。トホホではないか?
そもそもこの曲名である。「DO NA I」。関西弁をローマ字で書いているわけである。昔懐かしの「DA.YO.NE」を想起する人も多いだろう。これは「一周回って格好良い」ということだろうか? 私にはただダサイようにしか見えないが・・・。
まだ言いたいことがある。2番頭の村上のラップである。「村上がラップ」というのが既にサムいのであるが、それはまあ措くとして、そこで繰り広げられるリリックのサムさよ。「成り上がれ」とか「ダーティー」とか、『月曜から夜更かし』辺りで醸成された村上のイメージをそのまま抜き書きしたような内容ではないか。いや一応「演じる全部Entertain you」とあるので、「そうした言説は芸風・キャラ付けですよ」と述べている、と読めるには読めるのであるが、耳に付くところはそこではないわけで、どうしても「なんかなあ・・・」という思いが先に立ってしまう。
あと最後に一言。安田よ、村上が切角ファルセットをキメているのに「ハァ〜♪」を被せてはいけないよ(2:30)。


4. なぐりがきBEAT
二つ目のシングル曲。ブラスが効いた4ビートの格好良い曲である。スカパラっぽいですね。ウォーキング・ベースが魅力的。スカパラっぽい曲と言えば丸山のソロ曲「Kick」を思い出すが、両者を較べてみると冒頭部のアレンジがそっくりだ。
イントロ。ブラスのメイン・フレーズに「ッハッハッハッハ!」というコーラスが被さる。この掛け合いも聞き覚えがあるなあと思ったら、何のことはない「無責任ヒーロー」であった。そう思って聴くと「よっしゃー」が無いのが物足りなく聞こえる(そう言えば「なぐりがきBEAT」と「無責任ヒーロー」、曲名もどことなく似通っている)。
曲は格好良いしアレンジも良い(2番後・間奏前でブラスが上昇するところ、興奮させられる)。ドラムとベースを大きく録ったサウンドも私好みだ。
必要なものは全て揃っている。後はただ一つのマジックさえあれば、名曲になったはずなのだが…残念ながらそれが無かった、実に惜しいなあ、というのが私の印象である。
一つ言えば、歌詞にパンチが足りないということは指摘できそうだ。それは、例えば先ほど比較した「無責任ヒーロー」と較べても感じられるところではあるまいか。「昭和と平成、跨いできました」「些細な言葉に登って下って/君の人生は誰のもの?」…いやはや、こういうフレーズのことをこそ「キャッチー」と呼ぶのではないか?
勿論「なぐりがきBEAT」の歌詞は確かにこの曲に合ったムードを持ってはいると思う。ただ、聴き手をガッと掴むフレーズが手に入らなかった。本当にあと一歩だったのだ。
ところで今年の紅白歌合戦ではこの曲を歌うそうである。映画の主題歌だから聴き馴染んだ人も多くないだろうに、大丈夫か?と思ったが、派手さはなくとも丁寧な作りの曲なので、音楽ファンには受けが良いのではないかと期待する。


5. 夢への帰り道
BEGINの提供曲。私はBEGINについて殆ど何も知らない。沖縄のグループらしい。10年ほど前に「一五一会」という楽器のプロデュースをしていた(今でも弾いている人はいるのだろうか?)。それくらいか。知っている曲は「涙そうそう」のみ。あ、イカ天出身だったのですか。
そういうわけで、特に先入観というものもなく聴いたのだが、確かに夏の夕方のような爽やかな曲である。
全体的に、プロの作りという感じがする伴奏で(ピアノの使い方が良い)、耳に気持ち良い。サビは今ひとつ突き抜けない感じがするが、Aメロは綺麗だ。
ただ、個人的には歌詞がどうも。「夢への帰り道」というタイトルは面白いと思う。「夢からの」ではなく「夢への」となっているところに、特殊な現実認識といったものが感じ取れる。ただ、歌詞を辿ってみると、どうにも各々のフレーズが断片的に過ぎ、フレーズとフレーズとが繋がっていないように思える。私の理解力が充分でないせいもあろうが。例えば、「ゆめからさめ/ただひたすら/あさやけはまぶしい/夢への帰り道」・・・うーん。最後の一言さえなければ、おおよそ判るのだが。「理屈ではない、これがBEGINの歌詞世界なのだ」と言われればそれまでではあるが、個人的にはちょっと気持ちが付いていかない。
また「みんなが知っている歌/君だけに」というのは、「君だけに歌う」という意味で良いのだろうか? 誰も知らない歌を君だけに歌う、というのであれば判るが、「みんなが知っている歌」を「君だけに」届けたところで何になるのか、と思ってしまうのだが。やはり私が理屈っぽすぎるのであろうか。
あと、それとは別種の感想ではあるが、「ハグしてほしい」というのも私にはかなり違和感の残るフレーズである。「ハグする」という表現を果たしてこのまま日本語に馴染ませてしまって良いものかどうか、悩んでしまう。私が悩んでも仕方ないのだが。
それから、「ああ君は孤独をピアノ〜に〜い変えて」とか「知って〜え〜いる〜歌」のような、明らかに歌詞がメロディーに合っていないところがあるのも結構耳に付く。
そんなこんなで歌詞に苦しめられて曲の評価は割と低めである。綺麗な曲ではあるのだが。


6. えげつない
岡崎体育(芸名の由来は石野卓球だと睨んでいる)提供。いやあバッチシやってくれましたね。
関ジャニ∞ではかつて無かったくらいバリバリの打ち込み曲。渋谷がアジテーション?をやっているバックではこれまで関ジャニでは聴くことのなかったインダストリアル・メタル的なビートが鳴っている、打ち込みならではの暴力的なビートと言える。
もう一つ珍しいのは、歌唱がずっとユニゾンでなされていて、ソロ歌唱やハモリが排されていること。
そういう特殊な楽曲なので、明らかに関ジャニ∞のアルバムの中で核となることは出来ないのだが、しかし楽曲自体の質はとても高く、楽しんで聴くことができる。
一番の聞き所は、言うまでもなく中盤のラップ・バトルだろう。ネットでメンバーのネタを集めまくったと作者が語っていた。努力の賜と言える素晴らしい出来映えである。やっぱり岡崎自身がネイティブの関西弁話者だけあって、言葉の流れが実にスムーズ。ラップ化に伴う不自然さが殆どなく、何とも耳に心地よい。音楽であると共に話芸でもあると感じる。
バトルは「大倉VS安田」「渋谷VS横山」「錦戸VS丸山」となっているが、とりわけ出来がよいのは一つ目の大倉VS安田ではないか。「全てが散らかってる甘えん坊/実家から出直せアマ(=尼崎)へGO!」のライムは本当に凄い。続く渋谷VS横山も捨てがたい。4人とも、リリックが上手くノっているお陰で非常に良い感じに「演技」できている。
それに較べると最後の錦戸VS丸山はやや落ちる。錦戸のラップはちょっとリリック自体の力が弱いし、あとシメの「丸山ぁ〜!!」がヒくほどガラ悪い。これCDに残して良かったのか。これに対する丸山は、「ケンカすんのはイヤや」と言いながらも、次のブラストビートにて凄まじい罵詈雑言を畳みかける・・・という展開に行って欲しかったのだが、そうはならず、「9号車2番A席」を思い出すシミジミくる情景を歌っている。まあその後の歌詞の展開からすると、仕方のないことではあるが、ちょっと残念。
さて、歌メロ部分の言葉遊びにも注目したい。これまで、関ジャニ∞に楽曲を提供するということで「エイト」絡みのフレーズを盛り込んできてくれた人は少なくないが、「一筆書きで書いた二つの円」というのは素晴らしいですね。ヒップホップ文化に影響を受けた人ならではのフレーズだなという感じも受ける。「俺たち自身が偏西風だ/気流を掴んで乗ってこい」というのもシビれる!
「しっぺデコピン馬場チョップ」というのは、私は子供時代にやっていた遊びなので懐かしい。岡崎体育は私とほぼ同世代のミュージシャンで、つまり関ジャニ∞のメンバーよりはやや下の世代になるのだが、彼らも子供時代に「しっぺデコピン馬場チョップ」をやっていたのかな? いずれにせよ今の子供にとっては「馬場って誰?」だろう。
ところで、岡崎氏としては自分の「需要」をよく理解した上でそれに最大限応える楽曲を提供してくれたと思うが、このアルバムと同時期に出た彼自身のアルバム『XXL』では「鴨川等間隔」や「式」といった実にメロウな曲も書いているので、どうせならもう1曲、そういう路線でも提供してほしかったなあと思う。