「これをやっとかないと年が越せない」というような物事は誰にしもあろうが、今年の私にとってはそれは「関ジャニ∞の新譜の感想を書き終える」ということだった。何とか年内に果たせそうで安堵している。あとはツアーDVDの発売を待つだけだな。それにしても改めて聴き返すだに良いアルバムですねこれは。
8.CloveR
バラードの前曲で一旦締め括って、この曲のイントロで新たに仕切り直す、B面が始まったっていう感じで、いいですね。
彼らのシングルとしては珍しい打ち込み主体のポップス。嵐が歌っても違和感ない。現在のJポップ(特にアイドル界隈)の打ち込み率の高さには正直辟易としているのだが、この曲は音作りが丁寧というのか、うるさかったり安っぽかったりする感じがなくて、良い塩梅でエレキギターも鳴っているし、曲自体はシンプルながらアレンジに捻りもあるし、(絶賛には至らぬものの)なかなか良い曲と思う。冒頭の「CとRが恋したら4枚の葉をつけた」の意味がずーっと判らなかったのだが、ある日唐突に「あ、C/love/R か!」と合点がいった。大変ですね作詞ってのは。
9. ナイナイアイラブユー
金丸佳史の作。前作の「ひびき」は正直言って今一つであったが、何しろ「LIFE 〜目の前の向こうへ〜」という奇跡的な実績があるものだから今回も期待はしていた。しかしこれは・・・まさかドゥワップを持ってくるとは、予想していなかった。ツアーのセットリストにおける「クリスマス枠」用ということであろうか。
勿論それ自体はいいんだけど、言っちゃあナンだが、この曲は「ドゥワップを書こうと思って書いた」という、ただそれだけの曲だと思う。曲もアレンジ(by 久米康嵩)も良くできてはいるが、捻りというか、面白味といったものが全然ない。歌詞も陳腐を煮詰めたような代物だし。「ああ、ドゥワップでしたね」という感想しか出て来ない。そういうわけで個人的にはアルバム中でワーストである。
まあ擁護するならば、曲としては平凡なドゥワップであっても関ジャニ∞がドゥワップを歌うこと自体が初めてなのだから、提供した意義は大きい、という見方もできる。サビ前の大倉の「♪バッバドゥビドゥ〜」は確かに魅力的だし、錦戸が何やら物まねらしい歌唱を張り切ってしているのも聞き所ではあろう(ただ私はシャネルズ等を全然聴いていないので元ネタが判らない)。
10. WASABI
最初の1秒で「あ、これは好きな曲だ」と察せられた。多分そういう人は多いと思う。シンセが利いてはいるがガッツリと高音圧のロック・サウンドを聴かせてくれる。メロディーも良くって、Aメロ後半のオクターブでのハモりや、Bメロやサビの締め括りなど心憎い。
聴いている途中で「これは田中秀典の提供かな」と思って歌詞カード(という言い方はレコード時代の名残で、実際にはブックレット)を見ると果たしてそうであった。そう思って聴くと全体的な雰囲気が同氏提供の「ブリュレ」にとてもよく似ている。多分、「ブリュレみたいな曲を書いて下さい」と依頼されて(ふざけた話だ、と妄想に憤る)書いたのであろう。それで「似てはいるけど、確かに違う」曲を書いてくるのは流石にプロである。
最後にサビが2回続くが、1回目ではドラムを延々とフィルイン的なフレーズにして、心が引っ張られる。2回目のサビに入って遂にリズムが安定するところは、快感。
ただCメロの「本当はずっと好きでした/呆れるほどに一途でした」というところはちょっとどうかなと思う。本作の主人公は恋人がいる女性を奪おうとする男で、その意味では「悪い奴」なのだが、それに対して「ずっと好きでした」「一途でした」が免罪符になると思っているような感じが、なんか気持ち悪い。
11. ナントカナルサ
あ、これ「ナントカナルサ」という曲だったんですね。ちゃんと歌詞カード(ブックレットね)見てなかったわ。
最初聴いた時には「ちょっとパンチが弱い気がするけど、まあまあ良いかな」という程度の印象だったのだが、聴く度に印象が良くなっている気がする。何というか、ちょっとしたところへの気配りが色々と心憎い。例えば、Aメロのベースとドラムのフレーズが、1番と2番で全然違う。しかもベース、ドラムとも、1番で変則的なフレーズを演奏して、2番でストレートなロックンロールのフレーズを演奏している。普通は逆にしたくなるものだけど、変則的な方を先に出してしまうことで「普通」を厭う音楽ファンの耳も早い内に引き付けるようになっている。あと、2番後の間奏のフレーズなんか、このテの一見シンプルなロックンロール曲に持ってこようとはなかなか思わない、ちょっとニューウェーブ的な面白いフレーズだ。こうしたことは作者のKANA-BOON(いいバンド名だ)によるものか編曲者の大西省吾氏によるものか判らないが、とにかくこの曲を「侮れない」ものにしている重要な要素だと思う。メロディーも良い。歌詞はそれほど斬新ではないが「長い目で見てみてよ」なんてのは割と好き。
12. 前向きスクリーム!
前も書いたけれど、シングルの時のCMで見たときには「ちょっと偏差値低すぎるんじゃないか」と不安に思ったものだが、実際に1曲通して聴いてみると大分印象が上がった。パっと聞きで受ける印象よりもずっと良い曲です、これは。
一番重要なのは、この曲を「前向き前向き!(ハイハイハイハイ!)」云々という安直な盛り上げ一辺倒にしてしまわなかったことだ。端的には、Aメロが非常に音数少ないということである。例えば1番Aメロだと、前半はボーカル以外は殆どドラムしか鳴っていない。その後でベースやエレキギターも入ってくるが、非常に分離がよいのでうるさい感じが全くない。こうしたスッキリした音作りのAメロから、短くも叙情的なBメロ(いいですねここ)を経るという着実なステップがあるので、そこからのサビの爆発においてちゃんと聴き手が「はじけるアホ」になれるのである。
Bメロと言えば、曲中で3回出てくるけれど、サビ直前の処理が毎回異なる。則ち、1番(渋谷)では「Oh」の後に2拍タメて、2番(村上)ではタメなし、3回目(大サビ前)では2小節タメている(丸山の「同じアホなら〜」が乗っかる)。これも芸が細かい。
伴奏で言うと、2番に入る直前にエレキベースだけになるところがあるのは誰でも気付こうが、実はそれに続く2番Aメロはほぼずっとベース・ソロである。低音好きは決してお聞き逃し無きよう。奏者は「強く 強く 強く」作者の前原利次氏です。
そう言えば、こういうテイストの曲、現行のアイドル・グループならばまず間違いなく打ち込みで形成するところを、ばっちりバンド・サウンドで演ってしまうというところに関ジャニ∞制作陣の気概が感じられる・・・と思ったら、これドラムは打ち込みなんですね。気付かなかったなあ。ドラムが打ち込みだと普通ベースも打ち込みにするものだが、ベースはしっかり生で録っているもので、すっかり騙された。
ところで、これまた細かい話ながら、この曲の冒頭部で「前向き前向き!」という、曲中で何度も出て来るフレーズが3組歌われる(安田の声色が濃い)。このメロディーは1組目は「♪ソーソミ・ソーソミ」、2組目は「♪ソーソミ・ソーソラ」で、これは曲全体を通じてそうなのだが、イントロでの3組目の「前向き前向き!」は「♪ソーソミ・ソーソミ♭」と歌われている。これは曲中の他の部分では1組目と同じ「♪ソーソミ・ソーソミ」なのに、この部分でだけ、最後をフラット(半音下げ)で歌っているのだ。これはコードの進行的にはフラットにするのが心地よいと思うのだが、何故かこのイントロ部分だけでそうなっているのだ。面白くも不思議だ。
最後に余談ながら、間奏後に「空前絶後天上天下」というフレーズが出てくるが、この「天下」がテンガと発音されているようだ。呉音読みならテンゲ、漢音読みならテンカの筈だが。テンガと言えば、かつて渋谷が自分のギター(キャンディグリーンのストラト)の背面にTENGAの・・・まあいいかこの話は。
13. 言ったじゃないか
これは中学生か高校生が主人公だと思うんだけど、どっちでしょうね。やっぱり中学生かな。ませた小学生という可能性もあるが。
歌詞は他愛ないものではあるが、よく考えると面白いのは、結局相手の女の子がどのような形で語り手の男の子を裏切ったのかは一切具体的に語られていないということですね。「誰とも付き合わないって言ったじゃないか」という口ぶりからは、実は相手のコには彼氏がいたということが当然読み取れるのであるが、それが例えば「彼氏いるらしい」と噂で聞いたということなのか、実際に男の子と一緒に手を繋いで歩いているところを見てしまったということなのか、あるいはもっと凄まじいことに男と連れ込み宿に入る(または出る)ところを見てしまったとか(作詞は宮藤官九郎だから意外とこのセンも充分有り得る気がする)・・・そういう具体的結果については一切触れることなく、片思いの相手の(結果的に嘘であったことが判ってしまった)諸々の言質?を延々と挙げていくというのは面白い書き方と思う。
ただ一応、そこから結果についてもある程度は推し量れるようになっている。例えば「チャラい奴は無理って言ったじゃないか」からは、どうやらチャラチャラした男と付き合っているらしいことが、「門限あるって/夜九時までって言ったじゃないか」からはそれより遅い時間に彼女を見かけてしまったことが、「遊園地に行くなんて言ってないじゃないか」からは遊園地またはその近辺で見かけてしまったことが判る・・・なんだ、割と特定できちゃいますね。
あとやっぱり「でも行けたら行く、って言ったじゃないか」というのが切ないですね。「お祓いした方がいいよ」も良い。
あ、あとシメの「ぶっとばす」ね。「ぶっとばす」という言葉は「キング・オブ・男」にも出て来るが(何故か偶々今この曲を聴きながらコレを書いているのだが)、ニュアンスが全然違うのが面白いですね。ざっくり言えば、「キング〜」における「ぶっとばす」が「ロマン」であるとすれば、「言ったじゃないか」における「ぶっとばす」は「ギャグ」である。
楽曲面では、Aメロは割とシンプルで、これくらいなら頑張れば俺にでも書けるかなとか思いそうだが、そこからの展開が結構心憎いというか、特にサビの2・4行目(本当のことなんか知りたくはないの♪)のメロディーが、いい。なお作者が峯田和伸とあって何となくシンプルな青春パンクというイメージがあるが、実際に音源通りに演奏しようと思ったら各楽器になかなかの工夫があるので、ギターがパワーコードしか弾けないような凡百のパンクバンド(却ってそんなのは今時珍しいか)にはまるで手が出ません。
14. ふりむくわけにはいかないぜ
「High Spirits」がプロローグで「元気が出るSONG」がエピローグだとすると、本作は実質的に「勝手に仕上げれ」で始まり「ふりむくわけにはいかないぜ」で終わるアルバムだということになる。もう、それこそが全てだろう、ある意味。本作は名盤になるべくして名盤になったということだ。
サンボマスターの提供曲である(但し編曲クレジットはPeachで、演奏もサンボマスターではない)。いかにもという感じの曲であるが、私はもう聴く度に涙腺がゆるむ。よく提供してくれたもんだなこんなイイ曲を。勿論、関ジャニ∞にぴったりとハマっていることは言うまでもない。
サビなどで若干メロディーと言葉の合致が甘いところがあるのが気にはなるが、この曲全体の素晴らしさからしたら些細なことである。
「絶対振り向くわけにはいかない」という強い否定形の表明に、「もう一切」「金輪際」と歌う「LIFE 〜目の前の向こうへ〜」との共通性を私は強く感じる。「今の関ジャニ∞」が歌う「LIFE」がこの曲だということだ。「LIFE」もかなり好きだが、泥臭さを身に受けることで「LIFE」をも凌ぐ力強さをこの曲は放っているように感じる。
サビの始めと終わりに置かれる「絶対振り向くわけにはいかないぜ」という叫びがキモであることは言うまでもないが、最も心揺さぶるのはむしろ、そのサビへと繋がるBメロの締め括り「うつむいた心/今夜で終わらせる」「ザワついた心/今夜でケリをつける」であろうと思う。3度出て来るが、いずれも渋谷が受け持っている。他のメンバーも歌いたかったろうが、全てを渋谷に委ねたという点にもこのフレーズへの思いの強さが窺える気がする。
私は本作のツアーは観に行かなかったが、この曲の演奏シーンを観るためだけにでもDVDを買おうと思う。いや、勿論「勝手に仕上がれ」とかも観たいですけど。
15. 元気が出るSONG
関ジャニ∞が、「元気が出るSONG」と題した曲、となるとどうしても「好きやねん、大阪」「無責任ヒーロー」みたいなのを予想してしまうものだが、そこにこういう力強いバラードを持ってきたのは挑戦的だし面白いと思う。
曲自体も面白くて、サビの在り方が1度も重複しない(1番と2番はサビのメロディーがまるで異なるし、大サビでは1番のサビが転調させて歌われる)構成など、よくやったなあと感心する。唐突にバグパイプが出て来るようなこれまた挑戦的なアレンジも、メンバーが編曲に携わっていればこそだろう。
ただ、白状すれば私のこの曲への評価はあまり高くない。Aメロのラップっぽいメロディーが気に食わないというのもあるが、それ以上に重要なのは歌詞だ。私は、この曲の歌詞を「集中して」聴くことに困難を覚える。その主たる理由は、この曲がメンバー各人の協力によって書かれたというこの曲最大のウリ、正にその点であるように思われる。
関ジャニ∞のファンの多くは、彼らの音楽同様に(あるいはそれ以上に)彼らそのものを愛しているわけだから、この曲を聴くに際しては、各メンバーがどんな歌詞を書き且つ歌っているかに気を掛け(所謂「推しメン」についてはとりわけ)、彼がその歌詞にどんな思いを込めているか、じっくり考えることだろう。そうすると、きっと深い感動を覚えると思う。それは理解できる。
ところがだ。私のように彼らの音楽は愛しているが彼らそのものについては別にそれほどは、という立ち位置のファンからすると、この曲の歌詞は「散漫だ」と言わざるを得ない。そりゃあ無理からぬことで、1曲の中に7人の言葉が順々に出て来るんだもん。そこで上記のように「集中して聴けない」、つまり歌詞が頭に入ってこない、ということになってしまう。
そんなわけで、申し訳なさは感じつつも、私は「ふりむくわけにはいかないぜ」でアルバム本編は終わり、「元気が出るSONG」は美しいエンドロールというつもりで軽〜く聴いている。