こんなんだったっけ日記

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三回忌

 普段読むのはエッセイの類が多くて、小説は殆ど読まないのだが、ごくたまに「小説が読みたい」という気持ちがむくむくと湧いてきて、色々手を出すことになる。つい最近その周期がやってきて、現在何冊かの小説を並行して読んでいるのだが(かつて読んだものの再読が多い)、最初に手を付けたのが丸谷才一の(小説としては)遺作になる『持ち重りする薔薇の花』(2011年)。
 これは結果的に遺作になったということと、タイトルが魅力的なことから、以前から気になってはいたのだが、上記のように小説を読む習慣がここ10年ほどすっかり衰えているので、なんとなく敬遠していたのである。
 タイトルから恋愛の話かと思っていたのだが、意外なことに日本人の(世界的に活躍した)弦楽四重奏団の物語であった。彼らの辿った道を、彼らと親しかったさる大物財界人が語り明かすという体裁を取っており、その点であまり小説らしくない。ゴシップ的な話題も多く、その点でもむしろ丸谷氏のエッセイとの共通性を感じさせるものでもあった。そのせいかどうかは措くとしても、僕は非常に面白く読みました。
 本文中でサラっと「持ち重りする薔薇の花」という題の意味が明かされる。この部分に痺れた。薔薇の花束と言えばどうしても「恋愛」の象徴と思うでしょう? ところがそうではなく、これは「青春」の象徴なのだ。僕はあんまり青春というモチーフが好きではないのだが、それでもこのくだりにはグッと来た。僕は筒井康隆の『残像に口紅を』という実験小説が好きなのだが、この小説もタイトルの意味が文中でサラッと明かされる。これも実にグッと来るんだよなあ。『持ち重りする薔薇の花』には久しぶりに同じ感情を覚えた。
 氏のエッセイは高校生の頃から愛読しているが、小説を読んだのはつい5年ほど前、『裏声で歌へ君が代』を読んだのが最初である。その後『にぎやかな街で』という短編集を読んで、それっきりになっていた。どちらも非常に面白く読んだ(特に前者)記憶はあるのだが、どんな話だったかとんと覚えていない。これも再読したいと思う。
 今は『笹まくら』という長編を読んでいる。辞書を引くに、「笹枕」は旅寝の意味だそうである。第二次大戦中に、徴兵忌避によって全国を逃げ回った男の話(その当時と、戦後の現在の彼とが交互に語られる)であるから、なるほどテーマに良く合っている。これはまだ半分弱しか読めていないが、やはり面白いです。
 明日10月13日は丸谷才一の命日である。亡くなって早2年、今年が三回忌ということになる。

持ち重りする薔薇の花

持ち重りする薔薇の花