こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

モルゴーア・クァルテット@六本木スーパーデラックス(2014年8月22日)

 僕は決して決してプログレ・ファンというわけではないのだが、ピンク・フロイドの『原子心母』だけは異様に好きである。どれくらい好きかというと、あの牛のジャケットのTシャツを高校の時に通販で買って毎夏愛着し、それがヨレヨレになると2代目を購入してまた毎夏愛着して今に至る、というくらい好きである。
 YouTubeなんかで検索すると、海外では人を沢山集めてこの曲を再現するという試みが何度も行われているらしい。あの迫力を眼前で堪能できたらどんなに良いだろう。海外には行けないが四国か九州くらいなら行ってもいい、と思っていた。
 そんな折、モルゴーア・クァルテットが都内でライヴを演るというニュースをたまたま目にした。彼らが数年前にプログレの楽曲を弦楽四重奏にアレンジし直して『21世紀の精神正常者』というアルバムを出したことは(ジャケットのどぎつさもあって)結構話題になったので、プログレ・ファンならずともオールド・ロック・ファンの多くが知っていることであろう。彼らが先日その第2弾を出した、それが『原子心母の危機』なのである。当然収録曲に「原子心母」を含んでいる。
 そのレコ発ライヴだというのだから、「原子心母」を演らないはずがない。弦楽四重奏に編曲し直されたものであるから、僕の知っているあの「原子心母」とは別物のはずだが、それでも生演奏で聴ける機会はそうそうあるものではない。と言うか、今後二度とないかも知れない。迷わずチケットを購入した。
 実は彼らのアルバムは未聴。これは単純に僕がプログレ・ファンではないせいでもあるが、オリジナルの楽曲を聴いておいて、その場で始めて編曲バージョンを聴いて驚き楽しもうと思ったのである。アルバムの収録曲を見ると、結構知らない曲がある。クリムゾンの「レッド」「堕落天使」なんかは、『レッド』は好きなアルバムなので知っているし、イエスの「危機」も大まかなところは知っているが、ELPの「トリロジー」なんか名前しか知らないし(「悪の教典」は好きなのだが前作で既に取り上げたのだという。残念)、ジェネシスに至っては1曲も知らない。この辺りはYouTubeで付け焼き刃の予習を行った。


 さて当日。場所は六本木のスーパー・デラックス(すげえ名前だ)。上記のように僕は「原子心母」Tシャツを持っているのだが、流石にコレを着ていくのはミーハーに過ぎると思い、代わりにポール・マッカートニー「タッグ・オブ・ウォー」Tシャツを着用。はてさて両者の共通点は何か? 答は「どちらもヒプノシスがデザイン」。判る者だけ判れば良い、くっくっく・・・と「ちびまる子ちゃん」の野口さんのようにほくそ笑みながら会場に向かったのであった。
 弦楽四重奏だからてっきり座って観られると思っていたら、椅子は全体の半分以下で立ち見の方が多い。これには参ったが、演奏が始まると殆ど気にならなかった。まあロックのライヴと同じである。
 1曲目は「レッド」。いきなりあのイントロが奏でられるのだからコーフンしてしまう。モルゴーア・クァルテットは、僕は勝手に「プログレ・ファンがプログレを演るために集まった最近のグループ」と思い込んでいたのだが、実は東京フィルやN響の人たちが20年ほど前に結成したもので、当たり前だがめちゃくちゃ上手い。4人とも上手いのだが、特に(役割のせいもあって)第1ヴァイオリンであり編曲者でもある荒井英治氏の演奏の鮮やかさが際立っていた。
 「レッド」も良かったが、その次の「堕落天使」はもっと良かった。最高でした。最初に同じくクリムゾンの「平和」(これは知らない曲だったので予習した。『ポセイドンのめざめ』って5年以上前に1,2回聴いたっきりだなあ。『宮殿』の焼き直しじゃねえかと思ってがっかりした記憶がある)をイントロ的に流し、最後にまたそのメロディーが出て来る仕組みも良かったのだが、とにかく「堕落天使」の美しさといったら! 元々好きな曲ではあったが、こんなに綺麗なメロディーを持った曲だったのか!と目から鱗が落ちる思いだった。間違いなくこの日のハイライトであった。
 続いてフロイドの「マネー」。これは前作で取り上げられた曲とのことだが、勿論知っている曲なので助かった。これも非常に面白かった。楽器で弾きにくい歌メロだと思うのだが荒井氏は流石に洒脱な味付けをしていた。
 続くELP「トリロジー」で第1部終了。これは超絶技巧に興奮。
 第2部は、えーと、ジェネシスの「ザ・シネマ・ショウ〜アイル・オブ・プレンティ」とイエスの「危機」だったかな。
 客入れにトラブルがあって(確かにやたら外で待たされて苛々した)1曲目を聴けなかった人がいるとのことで、アンコール代わりに「レッド」をもう一回演るという、図らずもプログレ的な趣向でライヴは終了。そう、なんと驚くべし、「原子心母」は演奏されなかったのだ。これは本当に残念。でもしょうがない、この日は「堕落天使」で良しとしよう、と思うしかない。いやー本当に美しかったなあアレは。

21世紀の精神正常者たち

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原子心母の危機 Atom Heart Mother is on the edge

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