こんなんだったっけ日記

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渋谷すばる『NEED』感想

 サウンドとしては、前作『二歳』と同様、バンドサウンドを生々しく録音したものになっているが、前作に比べるとゴツゴツ感は減ってややスッキリしたような印象もある。前作でサウンド・ディレクターとして名を連ねていた山森大輔が今作は参加していないことが影響しているのかも知れない。分からないけど。

 前作のガツンと来るサウンドはかなり衝撃的だったので、その点惜しい気もするが、変化を付けてきたという点は良いことと思う。「素晴らしい世界に」の穏やかながら重厚なムードなど、これはこれでとても良い。

 オープニングの「Sing -a cappella-」に継ぐ2曲目にかなりダークな「Earth Color」を持ってきているのはチャレンジングだと思う。その次の「BUTT」で前作のムードに引き戻した感もあるが。

 前作同様、一定したムードは持ちながらも意外にバリエーションに富んだ楽曲構成になっているが、ビデオも作られた「風のうた」は驚いた。


渋谷すばる『風のうた』 [Official Music Video]

 ポップ爆発という感じで、大げさでなく奥田民生スピッツのステータスを狙っていけるような感じだ。前作のビデオ曲がロック魂全開だった「ぼくのうた」だったのと、好対照である。この両面を、今後も上手く活かして作品作りを続けてほしい。

 

 前作以上に器楽面での意欲が増していると感じる。「風のうた」は6分以上ある長尺曲だが、これはブルースハープ・ソロのアウトロが1分以上あることが影響している。一方「たかぶる」ではイントロが1分半ほどの長尺になっている。「今日はどんな一日だった」ではスライドギターとブルースハープをハモらせてのソロなんかもやっているし、伴奏面で色々なことを試したアルバムと言える。

 器楽で言うと、渋谷のハープが前作以上に全編でフィーチュアされていて、単にシンガーがハープも吹いているということではなく、本作では「シンガー且つハープ奏者」としての渋谷すばるをパッケージ化しようという意識だったのではないかとさえ思う。本作のハープで特筆すべきは何と言っても「水」のアウトロだと思う。本当に素晴らしい。この情感は何だ! これはもう、「元ジャニーズなのに」とか「歌だけじゃなく楽器も」とか、そういうレベルで扱うべきモノではない。純粋にブルースハープのプレイヤーとして評価されるべきと思う。 

 渋谷のハープと言えば、「ドヤ顔人生」の時から素晴らしかったが、いよいよ円熟味を増している。彼に合っている楽器だったのだろう。

 

 アルバムの構成について、冒頭で「Sing」のサビのアカペラを示し、アルバムの最後で同曲をフルで流すという趣向が、とても面白いと思った。このいわゆる「リプライズ」のアイディアは、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』を皮切りに色々なアルバムで行われてきたが、この『ペパー』にせよ、あるいはウイングス『バンド・オン・ザ・ラン』にせよ荒井由実ひこうき雲』にせよ、冒頭にフルを持ってきて最後にはカットされたバージョンを持ってくることで、言わばアルバムに対する余韻を残しているのだが、本作の場合は逆で、冒頭で予告編のように、あるいは伏線のように、サビのみ(しかもアカペラ)を示して、最後でタネ明かしのようにしてフルで流す。これはアルバムのクライマックスとしてすごく良い効果を挙げていると思う。

 

 ちょっとヘンなことを書くようだが、本作を聴いていると、時々関ジャニ∞のことを思い出す。この曲関ジャニで演ったらどんな感じだろう、みたいに。前作ではなかったことだ。例えば「水」の、「♪でも時に上を~」といったところを聴いていると、これ安田が歌ったらハマりそうだなあ、なんて思ったりする。

 

NEED

NEED

  • アーティスト:渋谷すばる
  • 発売日: 2020/11/11
  • メディア: CD
 

 

関ジャニ∞『Re:LIVE』感想(後編)

 前編はこちら。

 さて後編。1曲入りのCDにツアー2公演分のDVD2枚が付くという前代未聞の仕様。これで売上げ上はシングルCDに含まれるというのは殆どサギではないか。明らかにオモチャがメインなのに小さいラムネを入れてお菓子売り場に置くようなものだ。とは言え、安価でツアー映像が見られるのだから有り難いには違いない。
 私は近年の関ジャニ∞のライブを、(生でもビデオでも)見ていない。見た中で最新は『JUKE BOX』ツアーDVDか。『関ジャム』とかで単曲の演奏を見てはいたが。

 渋谷と錦戸という文字通りの二枚看板を失ったグループがどういうショーを見せるのか、チェックする良い機会であった。

 

 2公演(愛媛・高知)とも、オープニングは新曲「歓喜の舞台」。私はここで初めて聴いた。雰囲気としては、希望を高らかに歌い上げる感じが「Re:LIVE」と相通じる。どちらも良い曲である。

 1枚に1公演が収められているということで、抜粋なのだろうと思ったら、フルセットらしい。今回は長期のツアーということもあってかコンパクトなセットだったようだ(私は概して今のライブは長すぎると感じるので、これは文句ない)。

 セットリストは、かなり不思議な選曲である。渋谷・錦戸と、言わば"主力"メンバーが立て続けに抜けて(有り体に言えば)グループの魅力が低下している状態で、しかもアルバムを出しているわけでもないのだから、この時期のツアーと言えば、普通に考えればベストヒッツ的なものになるのが自然だと思う。ところが、この2公演のセットリストを見ると、シングル曲がかなり抑え目である。

 もちろん最新シングルの「友よ」は本編シメでやっているし、「今」「EJコースター」のような準シングルと言うべき曲も織り込んではいるが、全体的に見ればアルバム曲・シングルB面曲を明らかに意識的に採り入れている。この時期にやる冒険じゃないだろと他人事ながら心配になってしまうが、チャレンジ精神(意図はよく分からないけど)が感じられて私としては嬉しい。

 しかも、アルバム曲・シングルB面曲の中でも、「WASABI」のような人気曲だけでなく、比較的レアな曲も幾つも取り上げているのが興味深い。

 「浮世踊りビト」(『Wonderful World!!』B面)は実に嬉しい選曲で(ほんとにカッコイイ曲だ)、人気曲でもあると思うけど、演るのは『∞UPPERS』ツアー以来じゃないだろうか?

 「ナントカナルサ」は、人気あるのかどうか知らないけど、個人的には(そこまでハデではないながら)割と好きな曲なので嬉しかった。オープニングの村上・丸山も楽しそうで何より。

 とりわけ驚いたのは「myself」だった。『へそ曲がり/ここにしかない景色』のカップリングである。かつて記事にもしましたが(https://smith13ri.hatenablog.com/entry/20130429/1367216682)、いい曲だよなあコレ。これまでライブで演ってないのでは? まさか今になって聴けるとは思わなかった。とても嬉しい。「ロイヤルミルクストーリー」に次ぐB面名曲だと思う。

 しかし、なんと言っても最重要は「ふりむくわけにはいかないぜ」だろう。元々めちゃめちゃ好きな曲だが(https://smith13ri.hatenablog.com/entry/20151231/1451493031)、この状況下でこの曲を採り上げたその心意気を痛いくらいに感じるし、頑張れ!と声援を送らないではいられない。

 

 余計かも知れないが、折角なので気になった点もメモしておく。まず、あの「CHUU」というやつは何なのだ。私はちょっと耐えられずに飛ばしてしまったので、論評する資格はないが。あとなんで名前を「KICYU」にしなかったんだろ。

 あと、どうしてもバンド形態のことが気になるのだが、正直言って、横山はトランペットに向いてないんじゃないかと思う。CHUU「メタメタ」の演奏(見てるんじゃん)は擁護しようがない。「クラゲ」みたいにボヤけた音が合っている曲なら良いのだが、トランペットでハリのある音が出せないのは根本的問題と思う。人数が減って編成の問題もあるから、今からでもギターを練習してもらいたい。編成で言えば、村上の鍵盤、もっとガンガン鳴らしてくれなきゃ不満だなあ。

 それから、MCが妙に力ないのが気になった。アンコールの時とか。特に横山は「暗い」とさえ思える。なんかあったのかな。

 

 渋谷・錦戸が抜けた分の歌唱をどう埋めるのか、というのが一つの気がかりだったわけだが、例えば「キング オブ 男!」の大サビ前半(♪愛する女のためだけ~)、渋谷と錦戸の掛け合いが印象的だったが、丸山と安田が担当していてフムフムと思ったりした。「ふりむくわけにはいかないぜ」のサビ前の「絶対!」は渋谷が一貫して担っていたが、横山と村上がそれを担っているのは、なんか心に残るものがあった。

 あ、関係ないけど、舞台背景の∞マークが8色あったのも印象的だったなあ。

 

 一通り観てみて、全体への印象としては、安心というか、「充分楽しませるじゃないか」という思いだった。

 他方、率直に言うと、あの2人の穴を埋めるのは容易ではないし、この時点で充分に果たせているとも思わない。望むべくんば、各人の声にもっと存在感が出ればいいなあと思う。

 ただ悪いことばかりでもない。5人というのは、男性歌手グループの数としては、各人のバランス配分という点でむしろ以前より適当だと思う。これを活かしたい。今回の映像を見ていると、例えば村上がセンターに来る隊列なんかもしばしば見ることができて、新鮮だった。渋谷・錦戸が抜けて、「その他5人」として活動していくのではなく、むしろ5人が各人の存在感をこれまで以上に増していく形で音楽グループとして成長していってくれることを切に願っている。

渋谷すばる『NEED』

渋谷すばるの新作『NEED』を聴いている。傑作だった前作『二歳』のムードを継ぎながら、変化も見せている。サウンド的には前作の骨太さをやや柔らかくしたような印象もある。期待を裏切らない良いアルバムと思う。じっくり聴いてまた感想を書きたい。

 

NEED

NEED

  • アーティスト:渋谷すばる
  • 発売日: 2020/11/11
  • メディア: CD
 

 

関ジャニ∞『Re:LIVE』のDVD(ツアー映像)の感想も書きたいと思いながら、それっきりになってしまっている。見直さなくては。