こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

渋谷すばるのこと

週刊誌が渋谷すばるの脱退を報じた、という見出しをネットニュースで目にした時はコワいので中身を見ずに放っておいたのだが、その翌日だか翌々日だかに、メンバーが記者会見を開いて公式に発表したという記事を見た時には流石に中身を読まないわけにはいかなかった。

言うまでもなく、ファンにとってはメンバーが抜けるのは本当に辛いことだが、嘆いたところで戻るわけでなし、ましてや大の大人である本人が辞めたくて辞めたというのだから、我々ファンはなるべく早く気持ちの整理を付けて、今回のことのポジティブな面に目を向けるようにするのが、精神衛生上よろしいように思う。


今回のことのポジティブな面。それは第一には、「辞めたい人が辞めることができた」ということではないかと思う。
今更ではあるが、「人気アイドルグループのメンバーである」ということは実に珍妙なものである、と想像される。自分の顔写真が貼り付けられたうちわが大量に売り出されているのを珍妙と言わずになんと言おう? いくらそれが多くの人たちを楽しませているとはいえ、三十代も後半になった男が「もういい加減こういうことはやめて、別の生き方をしたい」と強く思ったとしても何の不思議もないと私は思う。
まあそういう理由で渋谷が脱退を決意したのかどうかは知らないが、とにかく私が思うのは、辞めたい人が「辞めたい」とちゃんと言うことができて、それを回りが必死に止めてくれて、でもやっぱり辞めたいとなった時にみんながそれを尊重してくれ、事務所はちゃんとした公表の場を設けてくれ、メンバーたちが温かく力強く説明の場に立ってくれる――これって素晴らしいことではなかろうか? ましてや関ジャニ∞のような大きなグループにおいてそれが果たされたということは、本人たちにとってもファンにとっても極めて幸運なことだったのではないかと思われてならない。


ただ残念なのはタイミングである。次のツアーには出てほしかった。それは「ファンに直接最後の挨拶をしてほしい」という思いもさることながら、「これで最後だ」という思いがこれまで以上のパフォーマンスを引き出すきっかけになったのではないかと思うからである。それを見てみたかった。
それからもっと欲を言えば、アルバムをもう一枚残してからグループを去ってほしかった。前作『ジャム』は決して悪いアルバムではなかったが、今ひとつ食い足りないという印象もぬぐいきれないものであった。どうせなら、痛快な一枚をドーンと作り上げてから、新たな道に進んで欲しかったものである。


ポジティブな面をもうひとつ挙げる。それはやはり今後の関ジャニ∞の音楽のことである。 渋谷が関ジャニ∞の音楽面の要であることは誰の目にも明らかであった。その彼が去ることの打撃もまた、誰の目にも明らかなわけであるが、それは逆に言えば、関ジャニ∞は現在、音楽的に大きく変化する又とない機会を得たということでもある。渋谷すばるという、技と力を兼ね備えた希有なシンガーを失った関ジャニ∞が、どのようにしてその音楽的窮地に立ち向かっていくのか、不安に思いながらも実は私は非常に期待しているのである(これは、ジョン・フルシアンテが(2度目に)脱退したときのレッチリに対する思いと似ている)。
渋谷の穴を埋めるという考え方ではなく、フォーメーションを1から組み直すという考え方で挑んで欲しい。おそらく試行錯誤の連続となろうが、その1場面を我々は次のツアーで見ることになるのだろう。

『ジャム』感想(各論篇2)

7. パノラマ
シングル曲。SHIKATA提供である。ひどい言い方になってしまうが、「またお前か」という感が強い。
SHIKATA氏は『JUKE BOX』の「Sorry Sorry love」以来アルバム毎に1曲受け持ち、この度は遂にシングル曲を担うことになった。打ち込み色が強い作風のせいもあって、これまでの作品も正直それほど気に入るものはなかったのだが、今回も同様。というか、ある意味では今回が一番ひどい。
尤も、サウンドは(相変わらずデジタルっぽさを散りばめてはいるが)かなり王道のジャニーズ・ポップスらしさがあって、聴きやすいし、メロディーもなかなか良い。テンションが高すぎてせわしない感もあるが、私は嫌いではない。
では何故「一番ひどい」などと言うか。それは偏に歌詞の故にである。全くなんなのだコレは。
まず冒頭の「今日も1日がスタート/カバンを忘れてしまった」。「カバンを忘れてしまった」ってじゃあお前は何を持って家を出たんだよ、と突っ込みたくなるが、これはまあ良いとしよう。冒険の始まりを導く「ツいてない毎日」の描写なのだなと一応は理解できるからである。
しかし次の「俺がカメかウサギかってどうでもいい」というのは、一体どういう意味なのだ? 「カバンを忘れてしまった」ことと関係がある気がするが、童話「兎と亀」には、忘れ物をするキャラクターはいないはずだ。だから喩えが意味不明だし、そもそも「どうでもいい」ならそんな喩えを持ち出さなければ良いではないか。でも、これもギリギリ許そう。「上手くいかなくてくすぶってる様子」の描写であると理解できるから。
で、次。「100回やり直したって100%やり切れば/どんなことでも大抵はそう/笑えるさ」。あれ? 唐突なポジティブさに驚かされる。カバンを忘れて「どうでもいい」とうそぶいていた彼はどこに行ったのか。この後はずっと、「胸が躍る」「秘めたその情熱」「楽観的志向」「絆」「勇気の火」「笑顔」いう感じなのである。で「最高で最強な瞬間はパノラマ」なのだそうだ。そりゃあいいけど、じゃあ最初のネガティブさは一体何だったのか? 転換のプロセスが一切描かれてないので冒頭の一節が完全に浮いてしまっている。
「繋がってない」感じは実はポジティブ部分に移っても変わらない。例えば、「東へ西へダンシング/いじめっ子にはグーパンチ/メソメソすんな、今日がダメでも明日があるさ」というところ、描写のカテゴリーがあっちこっち飛んでいて殆ど支離滅裂である。あるいは1番のサビを見てみても、「解き放て、秘めたその情熱で鐘を打ち鳴らせ/勇気の一歩踏み出せたらもう1人じゃない/大事な人守るためにいざ立ち上がれ」云々。確かにそれらしいフレーズが連なってはいるが、よく見ると各々のフレーズが全然関連付いていない。
この曲は少年向けアニメ(モンスターハンター ストーリーズ RIDE ON)の主題歌として提供されたものであり、歌詞のテイストも明らかにそれに沿ったものとなっているが、上で述べてきたように非常にツギハギの印象を与える。私は思うのだが、この歌詞は「それらしいフレーズ」(=少年向けアニメ的なワクワク感が出るフレーズ)を適当に当てはめていくことで出来ているのではないか?(これは全くの妄想だが、「パノラマ」というタイトル自体、ドラゴンボールZCHA-LA HEAD-CHA-LA」の歌詞にある「体中に広がるパノラマ」というフレーズに起因するものかも知れない)
いや、各々のフレーズに具体的な元ネタがあるか否かは別にどうでもいいのだが、とにかくこの歌詞は1つの文章としてのまとまりを有しているようには全然読めないという点を問題視したいのだ。子供向けの楽曲と思っていい加減な歌詞書いてるんじゃないの?と言いたくなる。
ところで「百人馬力」という言葉が2番に出て来るのだがコレは何であろうか。「百人力」と「百馬力」がごっちゃになったものだと思うのだが・・・もしアニメに人馬が出て来るのであれば、まあ良いのだけど。


8. Never Say Never
すっかり定着したメンバー自作曲。今回は安田章大単独の作詞作曲である。特に今回は単なる「アルバムの中の1曲」ではなくタイアップ(『スパイダーマン ホームカミング』吹替版)が付いたので存在感が大きい。自らコンペに出したとの由。
映画のCMにも使われたので度々耳にすることになった。CMには関ジャニ∞も出演していた。これマズかったですね。「洋画のCMになんでジャニーズが出てるの?」と思う人は多いだろうし(私だって思う)、その上CM自体の質も低かった。幾つか種類があったと記憶しているが、特に村上が「茶碗蒸し」とか言ったりするやつ、あれはちょっと見てられなかったな。「やっちまったな・・・」と思いましたよ。スパイダーマンに関心のない関ジャニ∞ファンの私ですらヒいたくらいだから、関ジャニ∞に関心のないスパイダーマンファンの方々の心証は、察するに余りある。本当になんであんなCM打っちゃったんだろう。
まあそれは良いのだ。肝心の音楽であるが、CMで流してもキッチリ耳に残る、良く出来た曲だ。安田の曲については毎回言っていることだが、シングルにしても良かったんじゃないか。
曲調としては「レスキューレスキュー」や「ER」「ER2」と同系列の曲と言えようか。デジロック的なやつ。メロディーがかなり凝っていて、面白い。特に「近道は仲間信じる道のり」というところなんて、奇妙なメロディーなんだけどやけに耳に残る。
ただ凝ったメロディー故に、全体的に言葉が上手く乗っていなくて何を言っているのかあまり聞き取れないのは残念である(その中にあって、さっきの「近道は仲間信じる道のり」だけは何故か妙にハッキリ聞き取れるので印象が強い)。
前回の記事で、「えげつない」にて「これまで関ジャニでは聴くことのなかったインダストリアル・メタル的なビート」と書いたものの、この曲でも出てきますね。これバンドで演れないかな。せっかく大倉はツインペダルを使っていることだし。


9. 侍唄(さむらいソング)
シングル曲。確か前のアルバムが出てすぐにリリースされたシングルであった。
錦戸主演のドラマの主題歌。このドラマは江戸時代の武士がなんと現代にタイムスリップするという斬新な設定で・・・って、それ前にもやっとったがな錦戸。忘れもしない『ちょんまげぷりん』だ。と言っても中身は全く覚えていないが。
まあ、それはいいのだ。とにかくそういうドラマの主題歌なので「レキシ」こと池田貴史にお声が掛かったわけだ。尤も実際の楽曲は「きらきら武士」のようなコミカルなものではなく、比較的直球のバラードである。伴奏もレキシのバンドが付けている。これは結構珍しいパターンである。お陰でいつもの関ジャニ∞らしいサウンドとはまた違ったサウンド(よりロックバンドらしいというか)になっている。アコギが効いているのも新鮮。
錦戸主体で、アコギが効いていて、バンド曲のバラードで、と、なんか「ツブサニコイ」を思い出しますね。ただ「ツブサニコイ」は弦楽が効きまくっていたのに対して、この曲はあくまでバンド主体。サウンドとしては私はこちらの方が好み。
サビを中心に、ハモりの聞き所が幾つもあるのが印象的。ただ、これも「なぐりがきBEAT」と同じで、あと一つ何かあれば好きな曲になったのになあ〜という感想である。
ところで今フと思い出しましたけど、「サムライブルース」という曲もありましたね。沢山の人に楽曲を提供してもらっていると、どうしてもこういう「ネタ被り」が起こってしまう。あ、あと「侍戦士(サムライソルジャー)」というのもありました・・・。


10. S.E.V.E.N 転び E.I.G.H.T 起き
ユニコーン提供。私は奥田民生は大好きだが(ソロデビューから『E』『LION』辺りまではほぼ全て愛聴している)、ユニコーンはあまり好きではないのだ。タイトルもなんか・・・。「S.E.V.E.N 転び E.I.G.H.T 起き」。言うまでもなく「七転び八起き」ということで、7と8が入っているから確かに関ジャニにピッタリの語句ではあるのだが、当然既に使われているのだ(「West side!!」。でも「七転八倒」は初めてかな)。曲中に「エイトのビート」というフレーズも出てくるが、これも「もんじゃい・ビート」で使用済みである。これらも「ネタ被り」の例である。
でもこの曲は良いですね。「関ジャニ∞ユニコーンの曲を演る」ということがまさしく具現化していると感じる。楽しい。
「サタデー・ナイト」を下敷きにした掛け声。そしてディープ・パープル「紫の炎(Burn)」を下敷きにしたギター・リフ。但しそれ一本で押し通すのではなく別のギターを対旋律的に加えてくるのは気が利いている。
曲全体としては、最初はコレも「もうちょっとヒネりが欲しかったよなあ」とか思いながら聴いていたのだが、段々「まあこのくらいが良いのかな」という気分になってきた。リフ、合いの手、ハモり、アンサンブルのキメ、と、ロックとしての盛り上がり要素は既に充分備えている。ライヴでの盛り上がりが目に浮かぶようだ。当然バンド形態でやるのですよね?


11. NOROSHI
最後のシングル曲。「キング オブ 男!」が提供されたヤンキー映画の続編?への提供曲とのこと。作者は異なるが、「キング オブ 男!」と同じ路線で、ただ「キング オブ 男!」はB級感が強めだったんでそこはちょっと抑え目で・・・というような打合せのもと書かれた曲と想像する。良くも悪くもそういうテイストの曲である。
太いベース音にエレピが絡んでくるイントロ。カッコいい! すぐさま加わるエレキギターもいい。この後でトランペットも入ってくるし、明らかにバンド形態を意識したアレンジと思うけど、これ村上弾けるのか? 観てみたい。
全体的にアツい曲ではあるが、特にドラムがアツい! 大サビ前の「守るべきものに守られていた日々に気付くでしょう」のバックで叩きまくる大倉を観てみたいよ私は。その直後の、渋谷の「掌が背に触れた」もいい! 何度聴いても実に痺れる。
そんなわけで全体的にかなり好感触なのだが、歌詞にもう少し聞き所があれば、もっと良くなったのになあと思う。あと「ハッ!」という気合い入れみたいなのが要所要所に出てくるけど、聞く度に和田アキ子を思い出してしまうのもちょっと難点。いや別に和田アキ子が嫌というわけではないのだが、なんか気になる。
あとサビの歌詞に「NOROSHI 高々とぶち上げろ」とあるけど、狼煙って「高々とぶち上がる」ものなのか? なんか煙がノロノロと空に登っていくイメージなんだけど。花火みたいに打ち上がる狼煙もあるのかな。
ところで、「NOROSHI」という曲名、なんか聞き覚えがあるな、似たような題名の曲があったような・・・と暫く考えてやっと思い出した。「ケムリ」だ。「無責任ヒーロー」のカップリング。「ブリュレ」っぽい格好良い曲で、コンサートでも披露されていたがDVDには収められなかった不遇の曲である。懐かしいな。


12. 青春のすべて
アルバム本編を締め括るのは「いきものがかり」の水野良樹の提供曲。私はいきものがかりについては「うさんくさい連中」というイメージがあったので、この曲についても多少の偏見を持ちつつ聴いたのだが、思ったより良かった。なんか「人気あるのも判るわ」という感じ。
イントロの音作りなんか実に「プロの仕事」を見せられている感じがする。めちゃめちゃカラオケ映えしそうなサウンドである。メロディーも綺麗だ。
・・・ただこの曲が好きかというと、別に、それは。まあ映像で見ると印象が良くなる可能性はあると思うが。

『ジャム』感想(各論篇1)

ボヤボヤしている内にクリスマスも過ぎてしまった。皆さんは『GIFT』を聴かれましたか? 私は聴いた。いま聴いてもやっぱり名曲ばっかりだ。聴き損ねた方は今からでも『∞EST』か何かで聴いて下さい。こんな記事もありますよ。
それはそれとして『ジャム』である。前回の「総論篇」で書き損ねたことを一つ。以前、本作について「予想したよりも良かった」というようなことを書いたが、事前の期待度が低かった理由について。
リリース前から、本作には『関ジャム』での共演者からの楽曲提供が多いことが告知されていて、実際シングル曲以外はほぼ全てその関連からの提供曲となったようだが、そうすると「全体の統一感」への危機感ということがどうしても気になってくる。つまり「ある程度それぞれに魅力的ではあるが、まとまりのないアルバム」になるのではないか、と恐れたのである。
しかしこれは杞憂であった。聴いてみると、思いの外にバランスの良い仕上がりになっているではないか(むしろ安田持ち込みの「Never Say Never」が浮いているようにも感じる)。曲数を12曲とかなり抑えた(これまでに較べると)のも功を奏していると思う。その点は良かった。ただ、先にも書いたように各々の楽曲にもう少しパワーがあればなあと惜しまれること頻りである。


1. 罪と夏
この曲は、シングルで発売される時にCMで何度も耳にしたが、正直その時には「そこそこの曲」という印象だった。シングルは結局買わなかったので、このアルバムで初めて1曲通して聴いたのだが、「こんなに素晴らしい曲だったのか!!」と本当に驚かされた。
尤も、CMでその魅力が判らなかったのも無理はない。というのも、この曲の魅力は「コントラスト」にあるからだ。何と何のコントラストかと言えば、「チャラさ」と「マジ」のコントラストである。
順を追って見てみよう。
まずイントロは、なんとベンチャーズの「パイプライン」(尤もオリジナルはベンチャーズではなくシャンテイズ)の引用から始まる。安物のラジカセから流れるようなチープな音で、巻き戻しを模したサウンドが「テープ感」を強めている。ここに「来たぜ夏!」「燃え燃えよ」云々という珍妙なヒップホップ調の歌が被さることで、「昔懐かしの夏」のイメージをぶち破って現代の軽薄な若者達が飛び出してきたようなイメージを与える。つまり冒頭は「チャラいなあ」というイメージ。
そこから間奏、Aメロ(「ほら見つけた、愛のビーナス」云々)になると、今度は爽やかなサウンドとメロディーになる。「あれ、実は割と聞きやすい曲なのかな」と感じる、ここが第一のコントラスト。
ところが、続くBメロではミクスチャーロックっぽいサウンドに展開し、歌詞も「誘ってんじゃね?」云々。「やっぱりチャラいじゃん」となる。更にそれに続くサビ前「真夏の俺等は罪・罪・罪なのさ」は(メロディーはグループサウンズ風)、誰が聴いてもダメ押しのチャラさとなっている(ご丁寧に「いや〜ん」という軽薄な合いの手まで付いている)。
ところが、このチャラさの極みに繋がるサビは何かというと、「マジだぜ!」という歌詞に始まる、重厚さ、シリアスさ、そして性急さを備えたまさしく「マジ」な音楽なのである。このような音楽そのものはそれほど物珍しいものではないが、先に立つ「チャラさ」から一転してここに展開するという、そのコントラストの妙義によって、このサビは本来以上の刺激と感動を与えてくれるのだ。
この展開は2番でも、そして間奏後の大サビでも同様である。実は大サビでは直前のフレーズが1・2番とは違い、曲冒頭のものと差し替えられている(「プレイバック!」というフレーズに注意)。ところがこの冒頭のフレーズも先ほど述べたように「チャラさ」の際立つものなので、サビへと展開するコントラストは1・2番と同様に、いやむしろ、大サビならではのアレンジの変化と相まって、この曲中で最大限に働いていると言えるだろう。マジな話、私はこの大サビの「マジだぜ」という渋谷の高らかな歌唱を聴く度に、涙ぐんでしまう。
そして最後、間奏を挟んで「N・A・T・S・U」云々というフレーズがエンディングを飾る。このフレーズ自体はベイ・シティ・ローラーズ「サタデー・ナイト」を借用したもので誰の耳にも馴染み深いものである(別の言い方をすれば、凡庸)のだが、しかし言葉を詰め込みまくることによって何とも言えずスリリングな効果が出ている。締め括りの「ガンガン強炭酸、ハートがビートの夏!」という部分は、何度聞いても最高に気持ちよい。
難を言えば全体的に歌詞が聞き取りにくいことか。そこは損をしていると思う。但しそれも音楽的なコントラストにはそれほど大きな影響を与えないのであった。
最後に、全くの余談を一つ。この曲の題名がドストエフスキーの傑作小説『罪と罰』をもじったものであることは言うまでもないが、実は元ネタの『罪と罰』も夏のシーンから始まる。ロシアの小説なのに意外ですね。


2. 今
そんなわけで前曲「罪と夏」は、アルバムの冒頭を飾るのに最高の1曲ではあるのだが、ただ1曲目がシングル曲であるということをどう見るか、ということもファンには気にかかるところだろう。関ジャニ∞のアルバムで、オープニングがシングル曲なのは本作が初めてである。それはこの「罪と夏」という曲をそれほど高く評価してのこととも言えようが、穿った見方をすれば「オープニングに持ってこられるほどの質の曲を用意できなかった」とも取れる。
で、続く2曲目がまさに、これまでのアルバムであればオープニングに配されていただろう曲。PVもあることだし、曲もかなり良い出来なので、これをオープニングにしても良かったと思うが、アルバムの全体のイメージを担う物として「罪と夏」に軍配が上がったということだろうか。
詞曲は布施明、じゃなかった「ニセ明」こと星野源の提供、そして編曲は菅野よう子、と豪華メンツである。
楽曲は、布施明を想起させるとまでは行かないものの、バンド・サウンドと弦楽・ブラスが鮮やかに入り乱れていて、確かに「夜のヒットサウンド」などで見馴れたバック・バンドに演奏してもらうのが似合う、ゴージャスな曲である。大サビの転調も気持ちよい。大サビと言えば、16分音符でクレッシェンドしてくるドラムも鳥肌モノの格好良さだ。
歌詞は抽象度が高いのでややもすると聞き逃しがちだが、腰を据えて聴くとなかなか深いことを歌っている(ような気がする)。「夢の中から/水の底から/手を伸ばし君の掌つないだ」なんて、アニメのオープニング曲の映像なんかにマッチしそうな、実に美しい情景を歌っていると思う。
メロディーも良い。特にサビ前半の大らかなメロディーは普遍的なものと言えるだろう。というか、「普遍的」と言いつつ、このメロディーどこかで聴いたことあるんだよなあ、とずっと気になっていたのだが、ある日ハッと思い出した。ヴィッキー・カー(Vikki Carr)の「この愛に生きて(It must be him)」である。既に指摘している人もあるかも知れないが、自分で思い出した記念に敢えて記す。

※この動画の1:00ごろ参照。


3. DO NA I
作曲は蔦谷好位置、作者はいしわたり淳治と、どちらも『関ジャム』常連ということで、このアルバムが出る時に『関ジャム』で特集を組んだ時にも重点的に取り上げられ、スタジオで披露もした一曲であった。しかし私の中では評価が低い。点数で言うと70〜75点くらい。
曲は良い。イントロなんか格好良いし。終盤もっとサウンドを盛り上げていくかと思いきや、割と一定のテンションを保ち続けたのも面白い。あと録音も良いと思う。
低評価の理由は専ら歌詞にある。先述の『関ジャム』特集回で語られたところによると、作曲者の蔦谷好位置は作詞について幾つか具体的なリクエストを付けていて、その内の一つが確か「サビ頭にキャッチーなフレーズを入れる」であったと記憶する。で、実際にいしわたり淳治が書き上げた歌詞を見て蔦谷好位置は「リクエスト全てに見事に応えている」と感嘆するのであったが、私には全くそのように思えない。
念のために確認しておくと、上述の「サビ頭のフレーズ」とは「イイトコなしのEveryday」である。
うーん。キャッチーかコレ? 何とも言えんなあ、というのが私の感想なのだが。
このサビ頭のメロディーはこの後にも何度も出てくるのだが、それらに付された歌詞をついでに拾ってみると「A to ZのEverything」「ニイちゃんネエちゃんShake your hips!」「ジイちゃんバアちゃんShake your hips!」…とある。トホホではないか?
そもそもこの曲名である。「DO NA I」。関西弁をローマ字で書いているわけである。昔懐かしの「DA.YO.NE」を想起する人も多いだろう。これは「一周回って格好良い」ということだろうか? 私にはただダサイようにしか見えないが・・・。
まだ言いたいことがある。2番頭の村上のラップである。「村上がラップ」というのが既にサムいのであるが、それはまあ措くとして、そこで繰り広げられるリリックのサムさよ。「成り上がれ」とか「ダーティー」とか、『月曜から夜更かし』辺りで醸成された村上のイメージをそのまま抜き書きしたような内容ではないか。いや一応「演じる全部Entertain you」とあるので、「そうした言説は芸風・キャラ付けですよ」と述べている、と読めるには読めるのであるが、耳に付くところはそこではないわけで、どうしても「なんかなあ・・・」という思いが先に立ってしまう。
あと最後に一言。安田よ、村上が切角ファルセットをキメているのに「ハァ〜♪」を被せてはいけないよ(2:30)。


4. なぐりがきBEAT
二つ目のシングル曲。ブラスが効いた4ビートの格好良い曲である。スカパラっぽいですね。ウォーキング・ベースが魅力的。スカパラっぽい曲と言えば丸山のソロ曲「Kick」を思い出すが、両者を較べてみると冒頭部のアレンジがそっくりだ。
イントロ。ブラスのメイン・フレーズに「ッハッハッハッハ!」というコーラスが被さる。この掛け合いも聞き覚えがあるなあと思ったら、何のことはない「無責任ヒーロー」であった。そう思って聴くと「よっしゃー」が無いのが物足りなく聞こえる(そう言えば「なぐりがきBEAT」と「無責任ヒーロー」、曲名もどことなく似通っている)。
曲は格好良いしアレンジも良い(2番後・間奏前でブラスが上昇するところ、興奮させられる)。ドラムとベースを大きく録ったサウンドも私好みだ。
必要なものは全て揃っている。後はただ一つのマジックさえあれば、名曲になったはずなのだが…残念ながらそれが無かった、実に惜しいなあ、というのが私の印象である。
一つ言えば、歌詞にパンチが足りないということは指摘できそうだ。それは、例えば先ほど比較した「無責任ヒーロー」と較べても感じられるところではあるまいか。「昭和と平成、跨いできました」「些細な言葉に登って下って/君の人生は誰のもの?」…いやはや、こういうフレーズのことをこそ「キャッチー」と呼ぶのではないか?
勿論「なぐりがきBEAT」の歌詞は確かにこの曲に合ったムードを持ってはいると思う。ただ、聴き手をガッと掴むフレーズが手に入らなかった。本当にあと一歩だったのだ。
ところで今年の紅白歌合戦ではこの曲を歌うそうである。映画の主題歌だから聴き馴染んだ人も多くないだろうに、大丈夫か?と思ったが、派手さはなくとも丁寧な作りの曲なので、音楽ファンには受けが良いのではないかと期待する。


5. 夢への帰り道
BEGINの提供曲。私はBEGINについて殆ど何も知らない。沖縄のグループらしい。10年ほど前に「一五一会」という楽器のプロデュースをしていた(今でも弾いている人はいるのだろうか?)。それくらいか。知っている曲は「涙そうそう」のみ。あ、イカ天出身だったのですか。
そういうわけで、特に先入観というものもなく聴いたのだが、確かに夏の夕方のような爽やかな曲である。
全体的に、プロの作りという感じがする伴奏で(ピアノの使い方が良い)、耳に気持ち良い。サビは今ひとつ突き抜けない感じがするが、Aメロは綺麗だ。
ただ、個人的には歌詞がどうも。「夢への帰り道」というタイトルは面白いと思う。「夢からの」ではなく「夢への」となっているところに、特殊な現実認識といったものが感じ取れる。ただ、歌詞を辿ってみると、どうにも各々のフレーズが断片的に過ぎ、フレーズとフレーズとが繋がっていないように思える。私の理解力が充分でないせいもあろうが。例えば、「ゆめからさめ/ただひたすら/あさやけはまぶしい/夢への帰り道」・・・うーん。最後の一言さえなければ、おおよそ判るのだが。「理屈ではない、これがBEGINの歌詞世界なのだ」と言われればそれまでではあるが、個人的にはちょっと気持ちが付いていかない。
また「みんなが知っている歌/君だけに」というのは、「君だけに歌う」という意味で良いのだろうか? 誰も知らない歌を君だけに歌う、というのであれば判るが、「みんなが知っている歌」を「君だけに」届けたところで何になるのか、と思ってしまうのだが。やはり私が理屈っぽすぎるのであろうか。
あと、それとは別種の感想ではあるが、「ハグしてほしい」というのも私にはかなり違和感の残るフレーズである。「ハグする」という表現を果たしてこのまま日本語に馴染ませてしまって良いものかどうか、悩んでしまう。私が悩んでも仕方ないのだが。
それから、「ああ君は孤独をピアノ〜に〜い変えて」とか「知って〜え〜いる〜歌」のような、明らかに歌詞がメロディーに合っていないところがあるのも結構耳に付く。
そんなこんなで歌詞に苦しめられて曲の評価は割と低めである。綺麗な曲ではあるのだが。


6. えげつない
岡崎体育(芸名の由来は石野卓球だと睨んでいる)提供。いやあバッチシやってくれましたね。
関ジャニ∞ではかつて無かったくらいバリバリの打ち込み曲。渋谷がアジテーション?をやっているバックではこれまで関ジャニでは聴くことのなかったインダストリアル・メタル的なビートが鳴っている、打ち込みならではの暴力的なビートと言える。
もう一つ珍しいのは、歌唱がずっとユニゾンでなされていて、ソロ歌唱やハモリが排されていること。
そういう特殊な楽曲なので、明らかに関ジャニ∞のアルバムの中で核となることは出来ないのだが、しかし楽曲自体の質はとても高く、楽しんで聴くことができる。
一番の聞き所は、言うまでもなく中盤のラップ・バトルだろう。ネットでメンバーのネタを集めまくったと作者が語っていた。努力の賜と言える素晴らしい出来映えである。やっぱり岡崎自身がネイティブの関西弁話者だけあって、言葉の流れが実にスムーズ。ラップ化に伴う不自然さが殆どなく、何とも耳に心地よい。音楽であると共に話芸でもあると感じる。
バトルは「大倉VS安田」「渋谷VS横山」「錦戸VS丸山」となっているが、とりわけ出来がよいのは一つ目の大倉VS安田ではないか。「全てが散らかってる甘えん坊/実家から出直せアマ(=尼崎)へGO!」のライムは本当に凄い。続く渋谷VS横山も捨てがたい。4人とも、リリックが上手くノっているお陰で非常に良い感じに「演技」できている。
それに較べると最後の錦戸VS丸山はやや落ちる。錦戸のラップはちょっとリリック自体の力が弱いし、あとシメの「丸山ぁ〜!!」がヒくほどガラ悪い。これCDに残して良かったのか。これに対する丸山は、「ケンカすんのはイヤや」と言いながらも、次のブラストビートにて凄まじい罵詈雑言を畳みかける・・・という展開に行って欲しかったのだが、そうはならず、「9号車2番A席」を思い出すシミジミくる情景を歌っている。まあその後の歌詞の展開からすると、仕方のないことではあるが、ちょっと残念。
さて、歌メロ部分の言葉遊びにも注目したい。これまで、関ジャニ∞に楽曲を提供するということで「エイト」絡みのフレーズを盛り込んできてくれた人は少なくないが、「一筆書きで書いた二つの円」というのは素晴らしいですね。ヒップホップ文化に影響を受けた人ならではのフレーズだなという感じも受ける。「俺たち自身が偏西風だ/気流を掴んで乗ってこい」というのもシビれる!
「しっぺデコピン馬場チョップ」というのは、私は子供時代にやっていた遊びなので懐かしい。岡崎体育は私とほぼ同世代のミュージシャンで、つまり関ジャニ∞のメンバーよりはやや下の世代になるのだが、彼らも子供時代に「しっぺデコピン馬場チョップ」をやっていたのかな? いずれにせよ今の子供にとっては「馬場って誰?」だろう。
ところで、岡崎氏としては自分の「需要」をよく理解した上でそれに最大限応える楽曲を提供してくれたと思うが、このアルバムと同時期に出た彼自身のアルバム『XXL』では「鴨川等間隔」や「式」といった実にメロウな曲も書いているので、どうせならもう1曲、そういう路線でも提供してほしかったなあと思う。