こんなんだったっけ日記

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Brian Bennett "CHANGE OF DIRECTION with the best of THE ILLUSTRATED LONDON NOISE plus"

 去年の年末に忘年会と称して友人たちとお気に入りのレコードを聴かせ合う会を催したのだが、その時に聴かせてもらったもので特に印象深かった一枚がブライアン・ベネット(Brian Bennett)の"CHANGE OF DIRECTION"というLPだった。
 ブライアン・ベネットという人はザ・シャドウズのドラマーだった人で、本作は彼の最初のソロ・アルバムである(1967年)。僕はその頃ブライアンさんはおろかシャドウズすら全く聴いたことがなくって、当然このアルバムもその時に初めて聴いた。その場で聴かせてもらったのは確かA面2曲目の'Canvas'という曲だったと思う。

 いや〜最高にスリリングなイントロですね。絶対フラットワウンドやろ!という感じのボインボインのベースも素晴らしい。ドラムは勿論のこと、フルート、エレキギター、ピアノといずれも演奏が弾けまくっている。
 これは欲しいな〜と思うものの、モノラルとステレオの両方が出ていて悩むなあ・・・という話ではなくって、今住んでいる部屋にはそもそもレコード・プレイヤーがないのだ。実家にあったのも処分しちゃったしなあ。
 ところが、アマゾンで見るとCD化されているという。しかも、次作である"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"(格好良いタイトルですね)との抱き合わせの1枚であるという。1990年頃にCD化されたもので、とっくに廃盤になっているらしくアマゾンでも中古でしか出ていない。ところがそれが1000円で出ている。
 それなのに、「今買わなくてもいいや」という根拠不明の先回しによって放っておいてしまった。先日久し振りに思い返してアマゾンで再び検索を掛けてみると、なんと3500円になっている。
 1枚のCDが3500円というのは、考えてみればそれほど高額というわけでもないのだが(絶版の古書だと元値を超すのはむしろ普通のことなのだし)、以前は1000円だったと思うと結構躊躇してしまう。結局また「その内値が下がったら買おう」ということにしてしまった。
 ちょうどその日、人と会う用事があってお茶の水に行ったのだが、待ち合わせの時間まで少し間があったので、JR御茶ノ水駅のすぐ傍にあるディスク・ユニオンで時間を潰すことにした。中古CDコーナーで、念のため・・・と思ってブライアン・ベネットの仕切りを探すが、彼の仕切り自体がない(これは想定内)。次いでシャドウズの仕切りを見に行く。ベスト盤など、僅かに4,5枚のCDがある中に・・・なんとなんとなんと、例の抱き合わせCDがあった! しかも、値段を見ると600円!! 思わず声が洩れた。こんなのは、本郷の古本屋のワゴンセールで藤岡弘、の本を100円で買ったらサイン入りだった、という事件以来のラッキーお買い物である。


 改めて御紹介すると、買ったのは、
"CHANGE OF DIRECTION with the best of THE ILLUSTRATED LONDON NOISE plus"
という輸入盤(フランスらしい)CDである。これは先程述べたようにブライアンさんの1960年代の2枚のソロ・アルバム"CHANGE OF DIRECTION"と"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"を抱き合わせたものではあるのだが、その成り立ちは若干複雑である。ネット上にある断片的な情報を寄せ集めると、どうも以下のようなことらしい。
 繰り返しになるが、1967年に"CHANGE OF DIRECTION"が、1969年に"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"がリリースされた。いずれもLPである。そして約20年後の1987年に、
"CHANGE OF DIRECTION with the best of THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"
というLPが出された。これは、タイトルからも察せられるように、"CHANGE OF DIRECTION"全編に、オマケとして"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"からの数曲を後ろに付け加えたという編集盤なのである。
 そして同じく1987年に(つまり上のLPと同時ないし同時期に?)リリースされたのが、僕が今回購入したCDである、
"CHANGE OF DIRECTION with the best of THE ILLUSTRATED LONDON NOISE plus"
で、これもタイトルの最後に'plus'とあることから察せられるように、LP版ではカットされた"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"の残りの部分を全て収めたというものなのだ。
 ところがここでややこしいのは、本作は、
"CHANGE OF DIRECTION plus THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"
ではなくって、あくまでも、
"CHANGE OF DIRECTION with the best of THE ILLUSTRATED LONDON NOISE plus"
であるということ。つまり、増補版LP"CHANGE OF DIRECTION with the best of THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"の後ろに、LPでは洩れた曲をどっかと収めているというのが本CDの構成なのである。ということは、このCDをアタマから聴き始めると、前半部分はLP"CHANGE OF DIRECTION"そのままである(音はステレオ)。ところが後半は、LP"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"と構成楽曲は全く同じながら、曲順はデタラメなことになってしまっているのだ。
 具体的に書くと、オリジナルのLP"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"の曲目は次の通りである。


【A面】
1 Love And Occational Rain
2 I Heard It Through The Grapevine
3 Chameleon
4 Wichita Lineman
5 Just Lookin'
6 General Mojo's Well-Laid Plan
【B面】
1 In The Heat Of The Night
2 Soul Mission
3 Take Me In Your Arms And Love Me
4 Rocky Raccoon
5 Air
6 Ticket To Ride


 これに対して、本CDでは次のような曲順になっている(最後の丸括弧内の数がオリジナルの曲順)。


Love And Occational Rain (1)
I Heard It Through The Grapevine (2)
Chameleon (3)
Just Lookin' (5)
Rocky Raccoon (10)
Ticket To Ride (12)
Wichita Lineman (4)
General Mojo's Well-Laid Plan (6)
In The Heat Of The Night (7)
Soul Mission (8)
Take Me In Your Arms And Love Me (9)
Air (11)


 要するに'Ticket to Ride'までが増補版LPの収録曲で、それ以降がCDにおけるボーナス・トラックなのだ。よって、オリジナルの曲順で楽しみたいと思う人(例えば僕のような)は、CDの後半部分の曲順を上のように入れ替えて聴かなくてはならないのである。実にややこしい。CD化に際して曲順をオリジナルに直すくらい、訳ないことだろうに。
 

 さて、肝心の中身であるが、非常に良いです。元々は"CHANGE OF DIRECTION"さえ聴ければ良いと思っていたのだが、実は"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"の方が気に入った。曲で言えば前作に入っている'Canvas'がパンチ力ではやっぱり最高なのだが、全体的な作風やサウンドディレクションにおいては、むしろ後者に軍配が上がる。前者がジャズ寄りで後者がロック寄りというのかな。前者ではホーンが、後者ではストリングスが目立つのだが(後者でもフルートは活躍)、そのストリングスがなんというか「ロック風」なのだ。ビートルズの'I am the Walrus'や'Strawberry Fields Forever'の感じと言えば判ってもらえようか。あとエレキベースも後者でより目立っているように思う(ベーシスト含め、演奏者は前者と後者で結構違うようだ)。それぞれのパーソネル(ドラム以外)は次の通り。


(CHANGE OF DIRECTION)
ベース:John Rostill
フルート、テナーサックス:Alan Skidmoor
フレンチ・ホルン:Fred Crosman, Jim Buck
ギター、シタール:Big Jim Sullivan
ピアノ、オルガン:Alan Hawkshaw


(THE ILLUSTRATED LONDON NOISE)
ベース:Herbie Flowers
フルート:Harold McNair
ギター:Jim Sullivan, Ritchie Tattersall
ピアノ、オルガン:Alan Hawkshaw


 曲も、後者の方がキャッチーなものが多い気がする。ビートルズと言えば、彼らの曲を2曲収めているのも見逃せない(なお前者ではキンクスの'Sunny Afternoon'を取り上げていて、これも面白い)。1曲は'Ticke to Ride'で、これはヴァニラ・ファッジ(格好良いバンド名だ)も取り上げていたし、シングル曲だからまあ判るんだけど、もう1曲は'Rockey Raccoon'なのだ。今後100回ビートルズのベスト盤が編まれるとしても1回も収録されないであろう曲である。良い曲なんだけど、華がないから。超有名グループが前年に出したばっかりのアルバムからカバーするというのも今の感覚からすると「へぇ〜」って感じだけど(でも当時は割と普通)、ホワイト・アルバムから敢てこの曲を選ぶというのはなかなかだ。なお出来映えに関しては、'Rockey Raccoon'は非常に良い、'Ticket to Ride'はもっと良い、という感想。
 それから、これは2枚に共通して言えることなのだが、ドラマーがリーダーのアルバムなのに冗漫なドラム・ソロが一切ないのが非常に好印象。大体、ドラム・ソロ主体の曲が1曲くらい入っているものなのだが、ちょっとしたソロが数曲にある程度である。でもバックでのプレイの鮮やかさによってしっかりドラムが堪能できるようになっているという、「ドラマーがリーダーのアルバム」として理想的な在り方になっていると言うことができる。


 そんな訳で愛聴しているのですが、実は"THE ILLUSTRATED LONDON NOISE"に関しては、1枚丸々が現在YouTube上にアップロードされています。

 先日、「金を払わずに手に入る音楽はマジメに聴かずに済ませてしまう虞がある」ってなことを書きましたが(本当にそう思うけど)、まあそう言わずにじっくり聴いてみてもらいたい。

Change of Direction

Change of Direction

チェンジ・オブ・ディレクション

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