こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

動機

 U2の新しいアルバムがiTunesで全編無料ダウンロード可、というのがニュースになった。僕はiTunesを利用していないので(使っている携帯音楽プレーヤーがケンウッドのものだから)、個人的には関係ない話ではあるのだが、アップルのCMに使われている「The Miracle (Of Joey Ramone)」という曲は格好良い。U2のアップルCM曲と言えば、もう何年前だか、「Vertigo」も格好良かったなあ。U2、それ以外にまともに聴いたことないけど。
 ところでこの「全編無料」という奴、配信までするのは異例なのだろうが、アルバム全編「試聴」可というのはこのところ結構広く行われているようである。ショーン・レノンのThe GOASTTの新譜もそうだったし、最近だとレニー・クラヴィッツの新譜(何曲か聴いたけど、いまいち)もそうらしい。ディアフーフ(新作出ますね!)の前回のアルバムも、全編が公式にYouTube上にアップロードされていた。
 YouTubeのコンテンツ発達にせよ、上記の傾向にせよ、音楽に極めて手軽にアクセスできるのは本当に有難いのだけれど、その手軽さが音楽の「有難味」を著しく引き下げていることもまた確かだと思う。老人のような意見で恐縮ですが。
 つまり、我々が音楽を、1枚のレコードなりCDなりを、本当に自分の中に染み込ませるには、対象をじっくり聴き込むということが普通は必要なわけであるが、我々が音楽をじっくり聴き込む動機としては、卑俗なようだけど「折角(高い)金を出して買ったんだから、何度も聴かなきゃ損」というのが、やはりあるように思うのだ。「2500円分聴いてモトを取らなくては」というケチ根性である。子供の頃は金がないから1枚のアルバムをしゃぶり尽くすように聴き倒す、というのも理屈は大体同じことである。
 こうした即物的な観念によって、しかしながら、我々は一つの音楽作品を「聴き込む」という経験を積んで、愛聴盤を、音楽への愛を増していくのである。
 ところが、1枚のアルバムが丸々タダで手に入るとなると、勿論その分、手に取って聴いてみる人は増えるだろうが、結局のところ「真面目に聞く」つまり聴き込むという作業に勤しんでくれる人の数は以前と同じ、否、以前よりグッと減る可能性だって少なくないと思う。「金を出したんだから」という、「真面目に聞かなきゃいけない理由」が一つ減ってしまったからである。
 僕自身、YouTubeや公立図書館によって日常的に無料で音楽を享受している身なので、偉そうなことは全く言えないのだけど、音楽ビジネスを復興させる一番の要因が「良きリスナーを増やす」ということであるならば、現状の在り方はそれに逆行することになってはいまいかと、ぼんやり不安を覚えるのである。