こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

親不知の顛末(下)

9月4日
 午後3時半に手術。手術前に「気分はどうですか」と聞かれ「緊張しています」と答えると、「あんまり緊張していると『ショック』といって血圧が急激に下がって危険なことがあるので・・・」と言われビビる。手術はあっさり始まる。最も恐れていた2本の麻酔は、最初に表面麻酔(塗り薬)を施してもらったお陰で全然痛みなし。「骨を削るので振動がすごいと思う」と言われていたが、大したことはなかった。「歯を割ります」というのも、ガコッという割れた音がするのが面白いくらいで、特に嫌なことなし。
 前回書いた通り、手術中はずっと『Phase』を1曲目から歌って恐怖や不安を紛らわすつもりだったのだが、実際には手術の動向が気になったり、「ハイ、じゃあ一旦噛んで下さい」と言われたりしてあまり歌に集中できず、結局4曲目の「ふたり」までしか歌えず。恐怖も不安も殆どなかったので、歌も必要なかったのであるが。手術はむしろ「面白かった」と言って良いくらいであった。担当して貰ったお医者さんが「当たり」だったのだろう。
 最後に2針縫って、手術は丁度40分くらいで終了。根っこが太かったので砕きました、という。「今まで(というのは手術前の日々のこと)痛くなかったですか」と訊かれる(全然痛くなかった)。「親不知の周辺にニクゲという、悪い菌の跡(だったかな)が沢山付いていました」と言われる。ニクゲってどんな字を書くんですか、と訊くと(手術も終わってくれるとこんな軽口まで飛ばせるようになるのだ)、「えーと、肉に、ゲ」と返答。帰って調べると「肉芽」だそうだ。
 抜いた歯の欠片と、5日分の痛み止め(ロキソニン)及び3日分の抗生物質の処方箋、そしてガーゼを貰う。血がドバドバ出て来る時はこれを噛んで止血して下さい、とのこと。これもビビる。当日は運動、風呂、ブクブクうがい禁止。夕食はゼリーとバナナ。なお手術料は3000円程度であった(薬代除く)。


9月5日
 手術翌日。朝一で病院にいって手術跡のチェック。問題なしと言われ安心。ともかくあの恐ろしい「翌日まで痺れが残る→半年から一年通院」というパターンを免れて安堵する(まあ500人に1人と言われていたのでまず大丈夫だろうとは思っていたが)。「今日が痛みとの戦い、明日が腫れとの戦いでしょう」と言われる。どうして痛み止めを飲んでいるのに痛みと戦わねばならないのか、と訊くと、薬は人により効き目に差があるからだという。残酷だ。この日の診察料は200円くらい。
 恐ろしいのは「ドライソケット」と言って、抜歯後の穴ボコに溜まった血が固まったモノがポコっと外れてしまうことで、こうなると骨が剥き出しになってしまうので(なんてこった)、また歯茎を切開して血を出し直さないといけないらしい。そんなの絶対に嫌だ。それを防ぐためには傷口にあまり触らないことと、ブクブクうがいは避けること。歯磨きは、抜糸までは歯磨き粉を付けずに磨くように言われる。抜糸はこの日から一週間後の12日。
 痛みについて。薬(食後に飲む)はなるべく6時間以上空けるように言われていたので、6時間経ったら薬を飲むためにまず何か食べて胃を動かす、という生活が数日。手術が上手かったせいか体が丈夫なせいか薬がよく効いたせいか、とにかく痛みはてんで大したことなかった。薬が切れかけた頃合いにズキズキ、シクシク痛むが、耐え難いものではない。薬はちょうど5日で切れた。抜糸までまだ2日ある。まだ最初の歯医者で貰った痛み止めが残っていたが、あんまり色々飲むのもどうか、と思い、飲まないでおく。時折痛むが、どうしても薬を飲まないと、と言うほどではない。ただ唾を飲み込むと多少痛い。ついでながら、鼻をかむのも結構辛かった。なんか口腔内の気圧が変わる感じがして、「コレ続けるとドライソケットになるんじゃ・・・」という不安がはっきりあったので、なるべく強くかまないようにしていた。
 腫れについて。全然出なかった。術後2日目くらいに、ごくごく僅かながら腫れた・・・ような気もする。他人にはまず判りっこないし、本人にさえ覚束ないくらい。インターネットで「下の親不知を抜くと思いっきり腫れる」とあったので、最高潮に腫れた瞬間を写真に撮って実家に送りつけてやろうと思っていた。腫れが出なかったのはその意味ではやや残念。
 口臭について。医者では言われなかったが、親不知を抜くと口臭が出るということがインターネット上で言われている(親不知そのものが口臭の原因になる場合もあるそうだが)。実際に口臭になっているかは、自分ではよく判らないが(なっていないと信じたい)、確かに口の中がムワワ〜っとすることがある。ネット上で「術後5日目辺りから出る」と見かけたが、まさしく5日目からそれを感じだした。始終ではないが、時折気になる。


9月12日
 朝、抜糸をしてもらいに大学病院へ。今まで診てくれた先生は休暇を取っているとのことで、今回だけ別の女性の先生。この時点で些か不安があったのだが、そして実際にその先生に会ってみると(30前後くらいの若い医師であった)、医療現場には相応しくないんじゃないかと思えるほど濃い化粧の人で、ますます不安になったのだが、的中した。
 まず「痛いようならば塗るタイプの麻酔をして下さい」と頼んだところ、「まあ抜糸してみましょう」と言われそのまま抜糸が始まる。そしてそれが痛い。糸が抜かれる痛みというよりも、歯茎を強くつままれている痛み。作業しつつ「表面麻酔してもねえ、あまり変わらないんですよねえ」と言われ、そんなわけねえだろと思う。「痛いです」というと「我慢して下さいねえ」と言われる。そりゃね、我慢はしますよ、大人だもの。「痛いです」というのは「もっと痛くないように工夫して下さい」という要望なのです。それが判らないらしい。諦めて、その後は黙って耐えた。たった2針だったので、時間は1,2分だった筈。最後の消毒も荒っぽいし、消毒用の綿(?)を取り出した時に、その綿に付着した唾液が糸状になっていたモノが私の鼻にくっついたことにも、気付かないようであった。
 料金は210円。治療はこれで終了という。やれやれ終わったと思って、状態を確認しに病院のトイレに入って鏡を見る。患部に、うっすらと黒い線が見える、気がする。おそらく傷跡であろうとは思うのだが、とにかく先程の処置に不満タラタラで件の女医のことが全く信用出来なかったので(他人に対してこれほど疑心暗鬼になるのは久し振りだ)、「ひょっとして糸が残っているんじゃないか」と疑う。


9月13日
 朝、前日の疑惑解消のため、最初に行った近所の歯医者に行って状態を見てもらう。「全く問題なし」。やれやれ。なお糸がちょっとくらい残っていてもそのうち排出されるから心配ない、とのことであった。あと恐れていたこと、「ドライソケットになっていないでしょうか」と訊くと、「ドライソケットって凄く痛むんだよ、ズキズキーって」とのこと。もしなっていたらはっきり自覚しているはず、ということであろう。


 そして現在に至る。今はたまに少し痛むのと、あとこれまた時折、口の中がモワーっとする。済んでみれば(抜糸以外は)ごくごく順調に行ったようで、誠に良かった。そして歯は大切にしようと改めて思いました。