こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

『Eから弾きな。』が(今のところ)イマイチな理由

 普段殆ど漫画を買って読むということをしないのだけれども、佐々木拓丸『Eから弾きな。』は主人公が左利きで、しかも右用のエレキギターを左弾き用に改造するところから始めるという、こういう記事を書いている人間としては文字通り要チェック作品なので、近所の本屋でベーマガ最新号と一緒に買ってきた。帯には「まずは牛骨を削ろう!」・・・これは買わざるを得ない。

 そんなワケで楽しみに読んだのだが、うーん・・・イマイチ。と言ってもヤフーでツイッターなんか見てみますとかなり好評なようなので、「僕としては」どこがイマイチに感じるかということをまとめておきたい。大まかに言って次の三点である。


(1)キャラクターがつまらない

 これは絵というよりは性格付けやセリフの問題。例えばヒロインのフミという女の子が三蔵(主人公)をとにかくよく殴るんだけれども、もうその時点で「こんな奴おらんやろ・・・」と引いてしまう。まず以て「ツッコミ代わりに思いっきり殴る」というのが漫画の手法としても古すぎる。

 会話も総じてリアルさがなく、また面白くもない。これは漫画として致命的欠点である。要所要所のギャグも笑えない(フミが三蔵を殴るのもギャグなのだろうが、今更そんなので笑えない)。期待できるのはゴーグル(ドラマー)くらいか。あとライブハウスの店長も良かったな。

 あと「左弾き」に焦点があたるのは最初の牛骨のところだけなのだろうか。頑張ってもうちょっと色々ネタを出して欲しい。なんなら提供しますので。
 左弾きと言えば、揚げ足取りをするようだけれども、何話だったかでFのコードを押さえるために紙に指板を書いて考えてみるというシーンがあって、そこで三蔵が書いた図が右用のギターの指板になっていた。左用のギターしか弾いたことのない人間がああいう図を書くとは考えられない(こういうのは作者と言うよりは編集者の責任だと思う)。指摘はあったはずだからコミックス化に際して直せば良かったのに。
(6/23補記)すみません間違えました。作中の指板は左用のギターになっています。但し、それを図式化するにあたってヘッドを左に向けて描いており、これは普段ずっとヘッドが右に向いた状態でギターを弾いている三蔵の行為としては、やはりおかしい。



(2)演奏シーンがつまらない

 音楽漫画においては「演奏シーンをどう描くか」というのが生命線である。僕の知る限りで、演奏シーンが良いなと思ったのは『のだめカンタービレ』、最悪だったのは『○○○の○○』(伏せ字)であるが、後者では(僕がたまたま読んだところでは)、なんか心象風景みたいなのを映し出した挙げ句、聴き手に「天才だ・・・」とか語らせるという、目も当てられない描き方だった。フンイキで誤魔化すのもいかんが、台詞で後付けするのはもっといけない。

 翻って『Eから〜』ではどうなっているか。僕は漫画の技法については全く無知であるが、なにやら細かい線を沢山入れてブレた感じにして「震動」を表現し、ひいては「轟音」を表現しているようである。確かに「音圧」は伝わってくる。だから轟音好きにはたまらん描写なのかも知れない。

 わざと絵をブレさせて激しさを表現するというのは、僕が大好きな次のPVでも使われており、「アリ」だとは思う(尤も僕がこのPVで好きなのは一つの絵がずらーっと重なっていくところなのだが)。

 ただなー、これは一つの誇張法なんであって、これに頼っているとロックという音楽は「音圧」しかないということになってしまわないか。もっと言えば本作の登場人物はみんなそういう音圧しかないような音楽ばかり演奏しているということになってしまうが、それは詰まらない世界だと思う。上で挙げたマキシマム ザ ホルモンだって、決してそんな単調なバンドではない。

 アンサンブルの妙やら何やら、ロックってもっと多彩な魅力を持った音楽の筈で、そこが表現できずに「轟音」一本で逃げるつもりなら頂けない。



(3)主人公は音楽が特に好きではない

 本作は「ギター入門漫画」であるわけで、そうするとギター経験のある読者は自分がギターを始めた頃のことなんかも思い出しつつ読むことになる。してみると、やはり非常に記憶に残るのは「これが弾けた!」という思い出である。僕の場合はビートルズの「A Hard Day's Night」のイントロのジャーン!を初めて弾いた時には「CDとおんなじや!」と非常に感動した(実際には全然「おんなじ」ではなかったのだが)。
 あるいは、ギターを抱えてわざわざ洗面所まで行き、鏡に自分の姿を映してポーズを取ったなんていうのは、多くの人が経験したことだと思う。

 でも、三蔵はファイアーバードを持っているからと言って別にジョニー・ウィンターになりたいわけでもない。確かに本作でもコード・チェンジを習った(=曲が弾けた)時の感動などが描かれてはいるけれど、憧れがない以上は「憧れに近付く」喜びはない。まあ「音楽への目覚め」みたいなのはこれから出て来るのだろうけど。
 上のビートルズの例のような、今風に言う「あるある」のエピソードがあるとギター経験者は面白く読める。逆に、牛骨ナットのような強烈な「ないない」のエピソードを盛り込んでいくというのは刺激的な方法であるが、今のところこの1ネタで終わってしまっている、


 タイトルは最高だと思うし、楽器の細かい書き込みとかも見応えがあるし、何より折角の左弾きギター漫画なので、あと一巻くらいは買ってみるかと思うが、そんなワケで今のところは残念ながら「ハズレ」である。上で挙げたような要素は話が進めば改善されるとかいうものでもないしなあ。ううむ実に惜しい。


(後記)後日、第2巻が出たので買って読んだが、特に印象が改善されなかったためそれ以降は読んでいない。