こんなんだったっけ日記

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Django Reinhardt (1910-1953)

 今日5月16日は、世界で最も高名なギタリストの一人であるジャンゴ・ラインハルトの命日である。亡くなったのが1953年だそうだから(私の両親が生れる前の話だ)、丁度没後60年ということになる。
 ジャンゴは録音時代のギタリストとしてもおそらく初期に属する一人と思うが、ギターをリズム楽器に留まらぬソロ楽器としても認知させたという点で、アメリカのチャーリー・クリスチャンCharlie Christian、1916-1942, この人も素晴らしい)と並ぶ立役者だそうである。なおジャンゴはベルギー出身で、ロマ(所謂ジプシー)の旅芸人の家庭に生れた。
 ジャンゴの演奏ジャンルはジャズで、特にジプシー・ジャズなるものの創始者とされるようだが、これはまあヨーロピアンなジャズと言いますか、簡単に言うと「第三の男」のテーマをもっと軽快にしたような感じの音楽である。
 ジャンゴに限った話ではないが、1940年代以前に活躍したミュージシャンの音源というのは、CDはおろかLPすら普及していなかった(!!)時代なので、「ベスト盤はなるべく避けてオリジナル・アルバムが聴きたい」などと思っても、何に手を付けていいのかが判りにくい。まあ「アルバム」という概念が希薄だったのだと思って大人しくベスト盤を聴いていれば良いのかも知れないが。
 ジャンゴの魅力はフレージングの巧みさ、音の色気、そして卓越したテクニックであるとまとめられようが、まあ考えてみればこれって全ての優れたギタリストの魅力と言えそうである。その中でジャンゴ独自の魅力とは何なのか・・・私には容易に語り難い。ここに来て白状すると、実はジャンゴを聴き始めてからまだ二週間くらいにしかならないのだ。
 勿論その名前は何年も前から知ってはいたけれども――と言ってもどういうわけだか「ライハンルト」だとずっと思っていたのだが――、ジャズに比較的縁遠いことと、時代があまりに古いこともあって手を出していなかった。
 しかし最近よくギターを弾くのと、『Back to the Future』を観た影響でチャック・ベリーを色々聴いたもので「ビートルズ以前の音楽ももうちょっとしっかり聴こう」と思って色々手を出した内の「大アタリ」の一つがジャンゴ・ラインハルトだったわけである。それにしても格好良い名前だな。
 そんなわけでジャンゴの魅力を語る資格は私には全然ないのだが、強いて言えば、単純にジプシー・ジャズという音楽そのものが耳珍しい中に、その音楽にピッタリと合ったフレーズを奏でているので非常に魅力的に且つ個性的に感じられるのである。また、極めてテクニカル(本当にメチャ上手い)でありながら退屈でない、充分な色気を持ったプレイであるというのも(テクニカルで退屈なギタープレイが世間に充ち満ちていることもあって)大変素晴らしいことである。火事に遭ったせいで左手の指に障害が残ったとのことだが、そんなことは全然感じさせない。
 バックに回っている時のコード・ストロークは独特の♪ザカザカザカ・・・という音色で、録音が古いせいもあってか時にはまるでファズでも踏んだかのようなサウンドである。これは正直言って上手いんだかよく判らないが、聴いていて面白くはある。
 さてジャンゴ・ラインハルトの作品集としては、『Djangology』と『In Memoriam』がよく知られているもののようだ。私はどちらも図書館で借りて聴いた。後者はジャンゴ死後の1955年にリリースされたものらしいが、英語版ウィキペディアディスコグラフィーにも記述がなく、詳細不明である。前者の『Djangology』はこれまたウィキペディアによると彼の生前にリリースされたレコード(LP?)ということで、元々は12曲入りだったようだが、現在では増補版が容易に入手できる。内容も申し分なしである。
 『Djangology』は、1949年初めにローマのクラブでの演奏を録音したものという(手持ちのCDの解説によると、客を入れての演奏でなく開店前のステージ又は楽屋で行われた。但し伝記にはラジオ局でのセッションとある)。時代が時代だけあって、全体にノイズが入っている。しかし演奏は実に素晴らしく、はっきり言って音質なんか気にならない。
 曲も良い。オリジナルとカバーを織り交ぜているが、どの曲でもジャンゴのギターの艶やかさとテクニックが堪能できる。特に、アルバムの最後を飾る(もっとも一番新しいCDでは曲が追加されて曲順も変わっているようだが)「Swing 42」という彼自身が書いた曲が、キャッチーなメイン・フレーズを持っていて聴き良いと思う。「Heavy Artllery」「Djangology」「After You've Gone」といった曲も良い。まあどれもいいけど。
 「Swing 42」
www.youtube.com
 「After you've Gone」
www.youtube.com

 ジャンゴは、ステファン・グラッペリ(Stéphane Grappelli, 1908-1997)というフランス人のヴァイオリニストとのタッグが有名で、このアルバムでも、恰もジェフ・ベックヤン・ハマーのように音のバトルを交わしております。なおジャンゴはステファンらと「フランス・ホット・クラブ五重奏団」という、日本が誇る横山ホットブラザーズをちょっと彷彿させる名前のグループを結成して活動していたが、『Djangology』でのメンバーはステファン以外は現地のミュージシャンだそうである。