こんなんだったっけ日記

さよなら はてなダイアリー

ヘフナー使い

 ポール・マッカートニーと言えばヘフナーであるが、それ以上にヘフナーと言えばポール・マッカートニーである。
 何しろ「ビートル・ベース」という呼称が一般的になっているほどであって、シグネチュア・モデルなどでもない普通のモデルで、これくらい1人のプレイヤーとイメージが密接に結びついた楽器は他にないんじゃないか。
 しかし、当たり前の話であるが、ヘフナー・ベースを使用しているベーシストはポールだけではない。
 日本人のヘフナー・ベーシストとして代表的なのは、Mr.オクレ・・・・・・いや、Mr.オクレがヘフナーを弾いているのは事実で、この前帰省した時にテレビの吉本新喜劇で見たのだが(池乃めだかがドラムを叩いていた)、代表的と言えばやはり「サリー」こと岸部修三(おさみ)であろう。
 今や(と言っても結構前からですが)、個性派俳優「岸部一徳」として世に広く認められている岸部ではあるが、タイガース時代から凄腕ベーシストとして知られていて、レッド・ツェッペリンジョン・ポール・ジョーンズ(大好きです)が来日中にPYGでの岸部の演奏をテレビで見て感歎したという逸話があるくらいである。
 YouTubeで聞けるものだと、「美しき愛の掟」というタイトルからしてモロGSというタイガースのシングル曲があって、このベースが凄まじい。いわゆるランニング・ベースというやつであるが、動きまくりである。こんなに大きな音でベースを録っちゃうのも凄い。有難いことに近年のライブ映像も見られるが、(これはソフト化されていないらしいが勿体ない)(補記、『沢田研二 LIVE 2011〜2012』としてソフト化されているようです。元々のテレビ番組の映像も現在YouTubeにアップロードされているが、これは欲しい)、ここでは流石に大人しいプレイをしているかと思いきや、終盤での弾きっぷりったら、もう。
 フレージングからしても、ヘフナーを使っているのがポールの影響であることは明らかであろう。
 アルバム収録曲やライブ・アルバムだとまた感触も違うのかも知れないが、シングル曲を集めたCDなんか聴いておると(特に初期の曲は)ベース自体は良くとも曲が甘ったるすぎてちょっと聴いていられなかったりするのが今となっては何とも勿体ないところである。それでも、モロに「デイ・トリッパー」(歌詞も含め)な「素晴らしい旅行」や、現在YouTubeには上がっていないみたいだが歪ませたベースが痺れる「ジンジン・バンバン」、1970年とは思えぬ斬新なアレンジの「怒りの鐘を鳴らせ」などは要チェックである。けだるい曲想のバックで動きまくる「はだしで」も良いです(「怒りの〜」と「はだしで」はドラムスも素晴らしい)。これもいかにもフラットワウンドという音ですね。
 日本人のヘフナー使いとしてはもう1人、矢沢永吉が有名である。キャロルですね。矢沢のベースと言えば例のシャモジみたいな奴が有名であるが、ヘフナーも弾いていた。ライブ映像ではこちらなんかで観られる(こういうのはソフト化されているんでしょうか)。意外とソツなく弾いている印象である。
 それはそうとキャロルって改めて聴いてみるとなかなか格好良いですね。僕はDTBWB派を自認しておりましたが(え、DTBWBとは何かって? イモだねえ、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドのことに決まってるじゃねえか)。それに、ビートルズに強い影響を受けている関係かも知れませんが、何となく僕の大好きなバンドであるトライセラトップスを思わせるところがある。「憎いあの娘」など聴いているとそれを感じる。トライセラの最初のミニアルバムにこんな曲がなかったか。
 さて、また意外なところでは、日本の宝・細野晴臣もヘフナーを弾いている。ジャズベのイメージがありますけどね。YouTubeで見つかったところでは、坂本龍一高橋幸宏らと「ハロー・グッドバイ」を演奏するのにヘフナーを親指弾きしている。確かにそう思って聞くとヘフナーっぽいサウンドである。  
 上3人(オクレを含めると4人)は皆日本のミュージシャンであるが、海外のミュージシャンだと意外に見つからない。いないことはないんだろうが。ウィキペディアの「Hofner 500-1」のページを見るとブライアン・ウィルソンがヘフナーを使っていたというのだが、ブライアンというとフェンダーのベースを使っていたイメージがあって、どの曲でヘフナーを使っていたのか判らないし、そもそも『ペット・サウンズ』なんかではあんまり(全然?)自分でベースを弾いていないという話もあって、コレという音源が見つからなかった。
 海外のミュージシャンで辛うじて指摘出来るのが、ディアフーフ(去年の新譜も素晴らしい)のサトミ・マツザキさんである。マツザキさん自体は日本人であるがディアフーフアメリカのバンドだから、海外のヘフナー・ベーシストということにしておこう。YouTubeで観られるモノだと傑作「Fresh Born」のライブ演奏がオススメ。確かにヘフナーっぽい音が出ている。ディアフーフとしてはちょっと異色の曲ではあるが「スーパー・ドゥーパー・レスキュー・ヘッズ!」でも結構聞こえる。
 この人の場合ポールの影響ではなさそうだなと思っていたら、インターネット上のインタビューにて、
  Because it's light. Not because I like him.     
 と明言してくれています(写真を見るに、ノブもポールの所謂ティーカップ型じゃないですしね)。それに対してインタビュアーが
  He's also got a song called 'C-Moon', and there's one on your new album with the same name. What's going on, Satomi?
 と突っ込むと、次のように返している。
  Really? Wow! I didn't know that. I recently watched him on some documentary, and he put the song list for his shows at the exact same spot as I put it on the Hofner. Maybe we think in the same way...
 「Cムーン」というのはポールのウイングス時代のシングル曲で、CDだと『レッド・ローズ・スピードウェイ』のボーナストラックとして聞けたはずである。で、ディアフーフにも同名の曲があるんですね(『Deerhoof vs. Evil』収録)。それはたまたまだそうです。
 で、「I recently watched him on some documentary, and he put the song list for his shows at the exact same spot as I put it on the Hofner」ですが、これは多分ポールがコンサートでのセットリストをメモしてベースに貼り付けているのだが、その貼っつけている位置が自分と一緒だということだと思います。で、「Maybe we think in the same way...」であると。面白いね。
 なおこのインタビューでは「The Hofner bass is loud, and it sounds really nice when I mute it with a rubber band. It makes a rhythmical tone.」という興味深い発言もしています。
 普通ゴムバンドでミュートをするというと、ナットと1フレットの間に巻いてノイズをカットするためのもので、トーンとはあまり関係がないように思われるのであるが、一体どのようなものなのであろうか。
 気になったので、マツザキさんがヘフナーを弾いている写真を幾つか見てみると、ディアフーフのウェブサイトなどを見るとこちら(ギタリストのエド・ロドリゲスが弾いています)のような写真にて、ブリッジのところに白い球体?がくっついているのが確認できる。思うにコレが(白いポンポンがついた)ヘアゴムであって、ゴムを(どうやってだか)弦のブリッジ側に巻いてポンポンを外に向けているということではないでしょうか。
 最後にポール・・・のコピーをしている人の動画を。これ、使っているベースが僕が買ったのと同じイグニション・ベースです。やっぱり弦はフラットワウンドにしなくてはな。ノブもしっかりティーカップ型に交換されています。(12/26補記:動画は現在削除。残念)
 更にオマケで、これはヘフナーではないんだけれども、トライセラトップスのベースにも時折フラットワウンドっぽいなと感じることがある。とりあえず一例、ラジオ番組でのビートルズ「Till There Was You」のカバー演奏(と言ってもビートルズのバージョン自体がカバーなんだけど)を御紹介。