こんなんだったっけ日記

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ナンシー関『ナンシー関の顔面手帖』

 ピンクレディーの往年のヒット曲には突出した特徴がある。それは「UFO」「サウスポー」「モンスター」「透明人間」の歌詞に表われているのだが、それぞれの曲で歌っている”宇宙人””女性左投げプロ野球選手””怪物””透明人間”が比喩ではなくてその通りの意味で歌われているということだ。歌謡曲には時々突飛な設定が出てくるが(註1)、あくまでもそれは比喩である。たとえば「いとしのロビンフットさま」は”ロビンフットみたいなあなた”であり、「花とみつばち」も決して花とみつばちのことを歌った歌ではなく”僕たち二人は春咲く花とみつばちさ”なのである。しかしピンクレディーは違う。宇宙人みたいな人ではなく本物の宇宙人だし、”三振を取るようにあなたの心をつかんでみせる”のではなく本物のプロ野球公式戦(対巨人戦)のことを歌っているのだ。そして「透明人間」の次のシングル「カメレオンアーミー」で、親衛隊がカメレオンなのかカメレオンのような人たちなのかが歌詞からは判断できなくなり、奇しくもこの辺りから人気にかげりが出ることとなったのである。

*註1:最近は、突飛な設定も比喩も、あまり歌われない。流行るのは、人生訓と哲学もどきの説教ばかりである。


 引用以上。 
 ここには載せられないが、「サウスポー」での衣装の二人を彫った消しゴム版画の題は、激似というのではないが特徴をよく摑んでいる。キャプションは、「人気ばくはつ!」。題は、そのままズバリ「昭和」である。

 『ナンシー関の顔面手帖』(角川文庫、1996年)